日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
塩辛
【カツオの酒盗】
かつお節の副産物から生まれた珍味
たたきや刺身のほか、かつお節などさまざまな形で食卓を飾るカツオ。カツオは世界中の熱帯から温帯にかけての海域を回遊する魚で、日本では古くから食用にされてきました。日本の近海では、黒潮の流れる太平洋側で春に北へ向かい、秋に南に下りてきます。
そのカツオでつくる塩辛が「酒盗(しゅとう)」です。もともとは、かつお節をつくる過程で出るカツオの内臓を有効利用したものでした。このため、かつお節のつくり方が改良された延宝年間(1673~1681年)ごろ誕生したものと考えられ、今日でもかつお節の産地である高知県や静岡県、鹿児島県などでつくられています。
かつお節をつくるときには、頭を落としたあとの身を三枚におろします。このときに不要となるカツオの内臓(幽門垂、胃、腸)を水でよく洗って水気を切り、3割程度の塩に漬け込みます。それを熟成させると、酒盗ならではの風味とうま味が生まれます。
ところでこの風変わりな名前には、土佐藩主の山内豊資が、土佐清水の宿でカツオの塩辛を肴に酒を飲んだとき、そのおいしさに“酒を盗んででも飲みたくなる”という意味で名づけたといういわれもあります。最近では、カツオだけでなく、マグロやサケなどほかの魚類でつくった「酒盗」も登場するようになりました。
そのまま酒の肴としてはもちろん、魚醤油や塩辛のように調味料として和えものに加えたり、煮物や炒め物の味つけなどにも使われています。