日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
塩辛
【このわた】
カラスミ、ウニとならぶ三大珍味
「このわた」は塩辛の一種で、中華料理の高級食材として知られる干しナマコ(海参=いりこ)をつくるときに不要な内臓を有効利用したものです。石川県(能登)、愛知県(三河)などでは古くからつくられています。
ウニやヒトデと同じ棘皮(きょくひ)動物に分類されるナマコ。珍妙なその姿から、よく「ナマコを最初に食べた人はえらい」などといいますが、『延喜式』にも記録があり、実は1000年以上も昔から中国や日本で食べられてきた伝統の食材なのです。同じ『延喜式』には、干しナマコと並んでこのわたも朝廷に納められたと記されています。
ナマコは長さが20~30cm、幅6~8cmほどで、体の色が褐色系のアカナマコと、暗緑色系のアオナマコに大別されます。関東ではアオナマコが、関西ではアカナマコが好まれるといわれています。
夏から翌年の春先までがナマコ漁のシーズンです。水揚げされたナマコは、いけすで砂や泥をはかせ、縦に裂いて内臓を取り出します。抜き取ったナマコの腸を海水でよく洗い、水をきり、約2~3割の塩を合わせよく混ぜます。水分をとって一昼夜おいたあと、密封して熟成させたものがこのわたです。
特に、寒い季節につくられたものがよいとされています。
特有の香気が酒の肴として、また暖かいごはんとともに供しても食通をうならせる珍味。「このわた酒」といって、このわたを熱燗でといて飲む楽しみ方もあります。