発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
  • 水産発酵食品

魚醤油(魚醤)

【イカナゴ醤油】

見直されるうま味とコク

イカナゴとは、コウナゴとも呼ばれるスズキ目の魚で、春に瀬戸内海沿岸などで水揚げされます。このイカナゴを原料に、四国の香川県や瀬戸内海をはさんだ岡山県でつくられた魚醤油が「イカナゴ醤油」です。

イカナゴはスズキ目の魚で、砂地のきれいな海を好みます。夏には暑さをさけて砂にもぐり、じっと夏眠をするのが特徴です。日本各地に生息している魚ですが、このようなイカナゴの生態に適した瀬戸内海では特に水揚げ量が多くなっています。成魚になると15~25cmくらいになるイカナゴですが、水揚げされるのは3~4cmの仔魚が中心。兵庫県などでは、このイカナゴを佃煮にした「くぎ煮」が春の味覚になっています。

このイカナゴをつかったイカナゴ醤油。たくさん水揚げされる4~6月に、水洗いしたイカナゴを塩漬けにして表面を松葉でおおいます。このまま発酵、熟成させると3~4カ月でイカナゴの体はすっかり溶けてしまいます。その汁を布でこしてできたのがイカナゴ醤油です。各家庭でつくられ、大豆の醤油と同様に、つけ醤油や煮つけなどにも利用されてきました。

ところが、明治期に入り大豆を原料とした醤油が多く出まわるようになると、手間と時間のかかるイカナゴ醤油はあまりつくられなくなってしまいました。大豆の入手が困難になった第二次世界大戦とその後の食糧難時代には復活しましたが、戦後、大豆の醤油の生産が安定すると、イカナゴ醤油はすっかり姿を消してしまったのです。

しかし近年、大豆の醤油にはない独特のうま味とコクが見直され、ふたたびつくられるようになってきました。じっくり熟成させたものは味もまろやかで、大豆の醤油と同じように利用するのはもちろん、うどんのつゆに使うのも人気です。