発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
  • 水産発酵食品

なれずし

【かぶらずし】

高級魚を使った、加賀藩伝統の贅沢な一品

石川県で昔からつくられている冬の特産物として
「かぶらずし」があります。かぶらずしのかぶらは野菜のカブで、これにブリをはさみ麹で漬け込んでつくる、ちょっと変わったすしです。これですしというと、不思議に思われるかもしれませんが、かぶらずしも他のなれずしと同様にすしの仲間なのです。

かぶらずしは江戸時代に豊漁を祈って行われる儀式の際に、ごちそうとして出されたといわれています。かぶらずしは保存を目的とした漬物ではなく、贈答品やおもてなしの料理としてつくられてきました。江戸時代は将軍家への献上品として贈られてきました。また、当時は庶民の食べるものは厳しく規制されていたため、高級魚のブリを漬物にして不満のはけ口としたともいわれています。現在でも、お正月のあいさつなどに贈られています。

つくり方にもまた、伝統が守られています。カブとブリを塩漬けにしておきます。スライスしたカブにブリを挟み、麹で本漬けにします。熟成期間は一週間から、長くても一カ月ほどです。そのため、お正月料理や贈り物として作る場合は日数を逆算して仕込んでおくそうです。

お隣の富山県では、ブリではなくサバやサケをカブで挟む、かぶらずしがつくられています。かぶらずしは、他の長期熟成のなれずしのような独特の香りがないため、食べやすいのも特徴です。北陸の伝統の味をぜひ試してみてください。