発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
  • 水産発酵食品

なれずし

【フナずし】

昔ながらの製法でつくる、日本のなれずしの代表格

「フナずし」は滋賀県でつくられるなれずしの一種です。その特徴はなんといっても独特な香りで、初めて食べる方は驚かれるかもしれません。腐っているのではと思われるかもしれませんが、これはよく発酵がすすんでいる証拠です。身はやわらかくチーズのような味わいが特徴です。

一般的になれずしは徐々に熟成期間が短いものが多くなりましたが、フナずしは昔と同じようにとても長い時間をかけてつくるのが特徴です。琵琶湖周辺でとれたフナを数カ月塩漬けにしてから、本漬けというご飯で漬け込む作業を行います。この本漬けも一年近くの時間をかけてじっくりと熟成させます。大きいフナは2年、3年と長期間漬け込みます。

フナずしは平安時代の文献『延喜式』にもその名が出てきます。昔から琵琶湖周辺では祝い事の料理として、また、朝廷や幕府への献上品として贈られ続けてきました。魚の保存法としてお米で漬け込むフナずしはとても貴重な食べ物だったのではないでしょうか。フナずしは琵琶湖の周辺で、長い歴史の中で変わらずに、時間をかけてつくられ続けています。

現在でも、滋賀県の神社では神餞としてフナずしを供える風習が残っています。また、一般の家庭でも、お正月やお客様へのおもてなしとして食べられています。
食べるときはそのまま切り身で、またはお吸い物やお茶漬けにしても美味しくいただけます。昔ながらのなれずしを一度は試してみてはいかがでしょうか。