日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
【ヤシ酒】
それぞれの土壌で発展したさまざまなヤシ酒
ヤシ酒も蜂蜜酒と並んで、とても古い歴史をもつ酒のひとつです。かつてはアフリカからインド、東南アジアにいたる広い範囲でつくられていました。
ヤシ酒の原料は、ヤシの花序や花軸、生長点などからとれる甘い樹液です。
糖分が非常に多く、野生の酵母がたくさんついているヤシの樹液は、放っておくだけで発酵が進みます。
その樹液の集め方、ヤシの種類、発酵のさせ方は島や場所によって千差万別。バリエーションが多いのも、大昔からつくられていた証拠といわれていますが、じつは、いつ、どこで最初につくられたのか、確かなことはよくわかっていません。
13世紀にアジアを旅したイタリア人、マルコ・ポーロの『東方見聞録』には、インドネシア・スマトラ島のヤシ酒のことが記されています。
スマトラ島北部のバタック族は、今日でも、マルコ・ポーロが見聞したのと同じような方法で酒をつくります。まずサトウヤシというヤシの雄花の軸を切り、そこからにじみ出る樹液を集めます。朝、それを壺に入れ、前回につくった酒を少し加えておけば、夕方には酒になっているのです。
ヤシ酒の原料となるヤシはサトウヤシのほかにもココヤシ、ナツメヤシ、ウチワヤシ、ラフィアヤシなど様々な種類があります。東南アジアからアフリカ東海岸にいたる広い範囲では、ココヤシの樹液がヤシ酒の原料となります。ちなみにインドネシアのバリ島の「アラック」はこのヤシ酒からできた蒸留酒です。このほか、現在はあまりつくられていませんが、北アフリカから西アジアにかけての地域では、ナツメヤシのヤシ酒がつくられていました。
【アラック】