発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
  • 酒

【蜂蜜酒】

北欧のバイキングが愛した「ミード」

蜂蜜酒(ミード)は、ワインやビールとならんで古代からつくられていた酒のひとつです。おもな材料は蜂蜜と水という、きわめてシンプルなもの。糖分を多く含んでいる蜂蜜は、ほかの酒をつくる原材料としても重要なもののひとつだったようです。今から約4000年も昔の古代メソポタミアの粘土板には、ビールづくりに蜂蜜がつかわれていたという記録が記されています。

古代インドの教典『リグ・ヴェーダ』の一節にもその名が登場するなど、世界各地で太古の昔からつくられていたミードは、古代ギリシャ、古代ローマ、古代ゲルマンの世界でも、北欧の海を船でわたるバイキングの世界でもよく飲まれていました。
たとえば、古代ゲルマン民族には新婚のカップルがミードを1か月飲み続ける風習があったそうです。ここから「蜜月(ハネムーン)」という言葉が生まれたといわれています。

また、イギリスやアイルランドでつくられたスパイスやハーブで香りを加えたメセグリン、ビールと蜂蜜でつくったウェールズ地方のブラゴットをはじめ、ベリー類といっしょに発酵させたメロメル、リンゴと発酵させたサイザーなどなど、ヨーロッパではいろいろな蜂蜜酒がつくられてきました。

中世になると、蒸留酒や材料が安定して入手できるワインやビールなどの醸造酒におされ、あまり飲まれなくなったミードですが、数百年の時を経た今、その魅力が新たに見直されています。現在、ミードを醸造するミーダリーはアメリカやカナダ、オーストラリアなど世界に約500か所。ミードは、材料が蜂蜜だからといって甘いばかりではなく、年を経たものになるとウイスキーのような深みのある味わいも楽しめます。