【クミス・アイラグ】
モンゴルのアイラグ、中央アジアのクミス
ユーラシア大陸の草原地帯では、昔から馬乳などの動物の乳を原料とした酒がつくられています。
モンゴルの遊牧民が動物の乳を醸造してつくるのがアイラグ。特に知られているのが現地で「グーニーアイラグ」と呼ばれる馬乳酒です。また、中央アジアのカザフスタンやロシア西部のテュルク語系の人々の間にも、馬や牛、ラクダ、羊などの乳でつくる「クミス」、「クムス」などと呼ばれる乳酒があります。13世紀にシルクロードやモンゴルを旅したマルコ・ポーロは『東方見聞録』の中で、タタール人の飲み物として、馬乳からつくられたクミスを「白ワインのような風味のある飲み物」と紹介しています。
モンゴルで馬乳が得られるのは、馬が出産し子馬に乳を与える季節だけです。毎年、夏至のころから10月くらいまでが馬乳酒のシーズンになります。牛と違って一度にたくさんの乳が搾れないため、1日に6回も乳搾りをしなければなりません。
乳酒をつくるときには、前の日につくったものを少しとっておいて、スターターとして新しい乳に加え、容器のなかで何千回も攪拌します。乳糖を豊富に含む濃厚な馬乳はこれだけで発酵し、1~2日で酒ができあがります。
かつては皮袋を攪拌の容器に使っていましたが、今日では入手が難しくなったため、ポリ容器と攪拌棒を使うことが多くなりました。
できあがったアイラグは、白くにごっていて、かすかに発泡する乳酸飲料のような味がします。アルコール度は1~2%程度と低く、モンゴルの人々の間では、酒というより栄養価の高い飲料として食事代わりにもなるもののようです。馬乳酒のシーズンには成人男性なら1日に10リットルも飲むこともめずらしくなく、6人家族で毎日20~30リットルの馬乳酒を消費するのだそうです。
秋が深まってきたころ、最後の馬乳酒は遊牧民の家である「ゲル」の外に置いて自然に凍結させます。つぎの春が訪れるころ、新たな馬乳酒シーズンのスターターとなるのです。
ところでモンゴルには、乳酒を蒸留した「アルヒ」と呼ばれる強い酒もあります。しかし、この原料は牛乳や羊・山羊の乳で、馬乳酒からつくられることはほとんどありません。
馬乳酒の醸造工程。木の棒で馬乳を撹拌している。