発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
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【ナガランドの酒】

稲芽でつくる珍しい酒

 

インドの東北部に位置し、ミャンマーと国境を接するナガランド州。この地域では、それぞれの民族に独自の醸造法が受け継がれ、それらは「麹酒」と「稲芽酒」に大別することができます。「麹酒」は日本の清酒のつくり方と基本的によく似たものですが、「稲芽酒」は世界のほかの地域ではほとんど見られないユニークなものです。

稲芽酒のつくり方は、つぎのようなものです。
まずモチ米の稲もみを数日間水につけたあと水を切り、さらに数日間かけて芽を出させます。それをいったん乾燥させて保存しておき、酒をつくるときに臼で細かく突き崩します。これとは別に水につけたモチ米を挽いて粉にし、熱湯を注いでかゆ状にします。かゆが冷えたところで稲芽の粉を加え、数日間かけて発酵させます。
このつくり方は、大麦を使ったビールづくりによく似ています。しかし、麦芽ではなく稲芽を使った酒づくりとなると、今日ではきわめて珍しいものなのです。

バラモン教の聖典には「亜麻布にくるんで玄米を稲芽にする……」「稲芽と大麦をすりつぶしたものに玄米がゆの重湯を注ぎ、それを発酵材とする」など、古代インドの酒づくりの様子が記されています。
どうやら悠久の歴史を秘めていそうな稲芽酒ですが、どうしてナガランドには残っているのか、その謎は、まだ解き明かされていません。