発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
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【清酒】

アジアのなかで独自の発展をとげた日本の酒


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清酒(日本酒)は、米を原料にコウジ(麹)を使って醸造する酒です。コウジは中国や韓国などの東アジアや、東南アジアの一帯で酒づくりに広く用いられており、清酒もその流れをくんでいます。ただし、多くの地域では穀物にクモノスカビやケカビを生やした草コウジや餅コウジを用いるのに対し、日本では、蒸した米に黄コウジカビを植えつけた米コウジ(バラコウジ)を用いるところが特徴です。

ところで、清酒は米のでんぷんを糖に変えるコウジのはたらきと、その糖をアルコールに変える酵母のはたらきが同時に進行する「並行複発酵」によってつくられます。ちなみにワインはブドウの果汁に含まれる糖分がアルコール発酵する「単発酵」、ビールは麦をまず発芽させてでんぷんを糖に変え、そのあとでアルコール発酵を行う「単行複発酵」です。
この並行複発酵によって、清酒のアルコール度数は18~20%にも達します。醸造酒としては特にアルコール度数が高い酒になるのです。

また、清酒はその名の通り澄んだ酒ですが、古くから日本でつくられていたのは濁り酒(どぶろく)でした。古代日本の宮廷で飲まれていた白酒(しろき)や黒酒(くろき)は濁り酒を漉したものをさし、『万葉集』(奈良時代成立)に掲載された「貧窮問答歌」には「糟湯酒」という言葉が出てくることから、庶民も酒かすを溶いたものなどを飲んでいたと考えられます。江戸時代までには、今日の日本酒づくりの原型がほぼ確立されました。

独特の麹づくりにはじまり、原料の米の品種の吟味、精米歩合や仕込みの工夫、濾過の方法から発酵をとめる火入れなどなど、今日の清酒づくりには伝統の知恵と技術がぎっしりと詰め込まれています。
かつて稲作とともに大陸からわたってきた酒づくりを独自の文化に昇華させた日本の清酒。その独特の味わいは、世界に誇れるもののひとつではないでしょうか。

日本酒づくりに使われる酒造適合米(高知県立牧野植物園 提供)