発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
  • 漬物

大根

【沢庵】

日本全国で食べられる大根のぬか漬け

「沢庵漬け」とも呼ばれ、庶民のおかずとして親しまれてきた漬物の代表格です。天日などで干した大根をぬか漬けにしたもので、長期の保存がきくため古くから各地でつくられてきました。

その名の由来には、江戸品川東海寺開山の沢庵和尚がつくった、「たくわえ漬け」が訛った、など諸説があり、時の将軍徳川家光が、師と仰いでいた沢庵和尚を東海寺に訪ねたおり、供された大根のぬか漬けを食べて「これはたくわえ漬けではなく沢庵漬けだ」と名づけたともいわれています。

沢庵づくりには、晩秋から初冬に収穫するいわゆる秋大根が最適です。畑でとれた大根を天日などで乾燥させるか、塩漬けにして水分を抜きます。乾燥させた大根は皮がかたくしっかりした歯ごたえになり、また塩漬けのものはパリパリした軽やかな歯ごたえになります。天日干しにするとき、いつごろ食べるか、その保存期間に応じて乾燥具合いを調節したのだそうです。

水分が抜けてしんなりした大根を11月ごろ、ぬか床に漬ければ、翌年の春以降に沢庵が漬けあがります。漬け込んでいるあいだに、大根のなかの辛み成分が反応して黄色くなります。その色は抜けやすいため、まんべんなくきれいな黄色に染まるよう、うこんなどを使うこともあります。

江戸時代、江戸に住む人々はあまり沢庵を漬けなかったそうです。じっくり時間をかける漬け方が、「宵越しの銭はもたない」という気っ風の江戸庶民になじまなかったからとも、火事の多い江戸市中では、重石をのせた漬物樽が避難や消火の邪魔になったからともいわれます。実際、江戸では、周辺の農村で漬けられた沢庵を買って食べるのが普通だったようです。

そんな周辺の村の一つが練馬です。名産の「練馬大根」は漬物に適した肉質の大根で、沢庵漬けによく使われています。