発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
  • 漬物

大根

【守口漬け】

特殊な大根を使った飴色のかす漬け

ぐるぐると長いひものようなかす漬け。色は明るい飴色です。一見するとごぼうのようですが、これは愛知県や岐阜県で栽培される「守口大根」の漬物。ねぎのように細く、長さは1mから人の背丈ほどになる特殊な大根でつくられます。

守口大根は、江戸時代以前から河内国、現在の大阪・守口市付近で生産されていたようです。この大根を使った漬物が1585(天正13)年、この地を訪れた豊臣秀吉に献上され、秀吉が「守口漬け」と名づけたともいわれています。秀吉が有名な黄金の茶室での茶席にこれを供したという記録も残っています。

明治時代になると、守口大根の生産の中心は栽培に適した愛知・岐阜へと移ります。長くまっすぐな大根をつくるためには、畑を深く耕す必要があり、また水はけのよい土壌を好む守口大根には、長良川や木曽川流域に広がる砂地の扇状地がうってつけだったのです。現在では、愛知県の扶桑町が守口大根生産の7割を占めています。

ところで、明治初年の資料によると、かつての守口漬けは「是も大根を湯にくぐらせ一日ひにかわかし粕に塩を混ぜて漬けかるく押をおく」(『漬物早指南』大阪・出雲堂本舗)というものでした。これに対し、守口大根を塩漬けにし、酒かすやみりんかすに何度も漬け直しながら熟成させるという今日の漬け方は、明治時代に愛知・岐阜で完成されたもののようです。

大根を収穫してから、飴色の漬物に仕上げるまでに要する時間はじつに2年以上。長期間漬け込まれていても、肉質のしまった守口大根は大根らしい歯ごたえを失いません。酒かすやみりんかすのなかで培われた独特の香りと甘みに、守口漬けの深みを感じるようです。