発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
  • 漬物

かぶ

【品漬け】

色とりどりの野菜を漬けた色鮮やかな漬物

岐阜県の飛騨地方でつくられる漬物です。この地方名産の赤かぶをはじめ、野菜ときのこを塩漬けにしただけの品漬け。つくり方こそシンプルですが、塩加減、手の入れ方、重石のかけ方も漬ける人によって違います。飛騨ではそれぞれの家に、それぞれの品漬けが受け継がれているのだそうです。

きゅうり、小なすなどの夏野菜やみょうがや、秋の出盛りのきのこを採れたものから塩漬けにしておいて、晩秋に収穫される赤かぶや菊芋、白菜などとともに本漬けにします。材料の品数をいろいろ取りそろえることから、「品漬け」の名で呼ばれるようになりました。

本漬けのときに使う塩は「お清め程度」といわれ、ほかの漬物にくらべると薄塩です。それでも乳酸発酵が進むので、保存のきく漬物になるのです。材料と同じくらいの重石をかけ、漬け込んで3日ほどで発酵がはじまります。それから1カ月、低温でじっくり発酵させ、初冬には新しい品漬けのさわやかな酸味が味わえます。少しの塩で乳酸発酵させる、このような漬け方の起源はとても古く、海から遠い山あいでは貴重な塩を節約する意味もあったのだそうです。

ところで、品漬けに欠かせない飛騨特産の赤かぶは、雪や霜に強く、山里での栽培に適していたため、江戸時代から積極的にこの地方でつくられるようになりました。飛騨地方では品漬けだけでなく、赤かぶだけを漬け込んだ長漬けや丸漬けなど、いろいろな漬物に利用されています。いずれも素材に赤かぶを漬けているので、美しい色合いになるのです。品漬けのきゅうりやなすも同様、漬け込まれるうちに赤かぶの色に染まります。

やさしい味わいとともに、彩りの美しさ、楽しさが魅力の品漬け。鮮やかな色が変わらないうちが食べごろです。