発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
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かぶ

【千枚漬け】

聖護院かぶでつくる京都伝統の漬物

その名のとおり、薄切りにしたかぶを何枚も重ねて漬け込む「千枚漬け」。京都に産する伝統野菜、聖護院(しょうごいん)かぶを使い、豊かな漬物文化を誇る京都でも代表的な漬物のひとつです。

もともと千枚漬けは、聖護院かぶと昆布だけを素材にして、乳酸発酵によって酸味と風味をかもし出す漬物でした。かぶの皮をむいてから、大きな専用のかんなを使って3~4ミリほどに薄くスライスし、2~3日塩漬けをします。余分な水分がとりのぞかれて厚さが2ミリたらずになったかぶを、昆布だけ、または少量のみりんと合わせて本漬けし、乳酸発酵させるのです。2週間ほどで熟成し、食べ頃になります。

今日親しまれている千枚漬けは、酢を使って漬けるもので、江戸時代の慶応元年(1865年)に京都御所で供されたのがはじまりといわれています。塩で下漬けした薄切りのかぶと昆布に酢とみりん、砂糖をふりかけながら漬けていきます。聖護院かぶはきめが細かく、肉質もやわらかいので、数日で甘酢が浸透して漬け上がります。使う酢によっては酢漬けのほうが発酵づけより色が白く仕上がり、保存もきき、古くからの製法におとらない風味が得られるのだそうです。

千枚漬けに欠かせない聖護院かぶは、享和年間(1801~1804年)に、京都の聖護院の農家が近江かぶを改良してつくったところからこの名があります。直径は20センチ、重さは5~6キロにもなり、かぶとしては日本最大級。連作障害をおこしやすく栽培の難しい野菜で、京都以外の土地では大きくならないともいわれています。

聖護院かぶは秋から冬にかけてが収穫期。冬の風物詩として、千枚漬けの漬け込みがニュースになるのもこの時期です。千枚漬けが味わえるのは伝統的に11月から3月末ごろまでと限られています。また風味が逃げやすいので早めに食べきるのがおすすめです。