発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
  • 漬物

かぶ

【日野菜漬け・松阪赤菜漬け】

蒲生家とともに日本各地に広まったぬか漬け

日野菜はかぶの仲間ですが、根は細く、葉のつけ根の茎の部分が鮮やかな赤紫色をしているのが特徴です。この日野菜、歴史もちょっと風変わりです。

今から500年ほど前、今の滋賀県にあたる近江蒲生郡の日野をおさめていた領主・蒲生貞秀が道端に茎の赤い雑草を見つけ、漬物としてつくらせたのが日野菜漬けのはじまりといわれています。

貞秀の孫である蒲生氏郷は織田信長、豊臣秀吉につかえた戦国武将です。その豊かな才能をとりたてられ、近江日野城主から伊勢松阪、そして会津若松城主となりました。氏郷は、領地がかわるたびに新しい街づくりに力を注ぎ、日野から商人や職人を多く呼び寄せたといいます。同時に、松阪にも会津若松にも日野菜が伝わりました。

日野菜漬けはシンプルなぬか漬けです。秋から冬にかけて収穫した日野菜を、1日天日に干します。2週間ほど塩で下漬けしたものにぬかをはさんで本漬けすると1カ月ほどで漬けあがります。乳酸発酵による酸味のきいたぬか漬けの風味に、赤かぶのやわらかな歯ごたえが上品な漬物ができあがります。この日野菜の根の部分を薄く切って食酢や梅酢に漬け、美しい桜色に染めた「さくら漬け」もよく知られています。

ところで日野菜は、ふるさとの日野では明治時代に品種改良されて今日の形になりました。一方、三重県の松阪では「松阪赤菜」と呼ばれる細長い根の全体が赤いものが栽培されています。これは、一時期栽培が途絶えていたものが、伝統野菜として見直され、近年栽培を再開したものです。

江戸時代に入り、貞秀や氏郷の後裔である蒲生忠知が四国の松山城主に転じると、日野菜はここにも伝えられ品種改良されました。こちらは「緋の蕪」と呼ばれ、葉を切り落として真っ赤な根を塩漬けにしたものが、「緋の蕪漬け」として親しまれています。