日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
なす
【しば漬け】
建礼門院がゆかり? 京の伝統が染め上げた鮮やかな紫色
伝統的な漬物が多い京都においても代表的な漬物、「しば漬け」。なすやみょうがを赤じその葉とともに漬け込み、発酵させたもので、しその香りとさわやかな酸味が特徴の漬物です。
その名の由来は、800年ほど前の平安時代末期までさかのぼります。源平が戦った壇ノ浦の合戦のあと、京都・大原の寂光院に隠棲した平清盛の娘・建礼門院徳子。院を慰めようと、里の人々が手づくりの漬物を持ち寄ったところ、院がその美しく高貴な色合いに感激して「紫葉漬け」と名づけたとも、里人から供された野菜を保存するため、院がしその葉とともに漬けさせたのがはじまりともいわれています。また、この里の女行商人の大原女(おはらめ)が頭に担いで売り歩いた柴にちなんで「柴漬け」と呼んだという説もあります。
今では、青じそを使ったものや、きゅうりを漬け込んだものなどもつくられていますが、大原でつくられる本来のしば漬けは、なすと赤じそを塩だけで漬け、乳酸発酵させたもので、特に「生しば漬け」と呼ばれます。なすを薄く切り、塩をまぶして揉んだ赤じその葉と合わせて重石をかけます。アクを取り除きながら漬け込んでいるうちに、自然に乳酸発酵し、酸味と味わいが醸し出されて美しい赤紫色に染まるのです。
しば漬けに使われる代表的ななすといえば、まん丸い形が特徴的な賀茂なすです。昔から栽培されてきた伝統的な京野菜です。7月中旬から8月中旬の盛夏に刈り取ったしそと旬のなすを漬け込み、数カ月間じっくり発酵させれば、秋には味わい深いしば漬けができあがります。地元の産物でつくられる伝統の味覚です。今でも寂光院では年中行事として、里の人々がしば漬けの漬け込みを行うのだそうです。