発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
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【高菜漬け】

九州ではぴりっとした古漬けが伝統の味

九州地方の代表的な漬物「高菜漬け」。高菜はアブラナ科カラシナの一変種で、中国からおそくとも平安時代には伝えられたものと考えられ、平安時代の辞書『新撰字鏡』(892年)に「太加名」、同じく平安時代の文献『延喜式』(928年)にも「菘(たかな)」の名が残っています。この高菜は日本全国に広がり、福岡県の「かつお菜」や宮崎県の「いらかぶ」、秋田や岩手の「芭蕉菜」などその土地の伝統野菜となって今に伝わったといわれています。

ところで今日、高菜漬けの材料となっている「高菜」は、平安時代から日本で栽培されてきたものとは少し違うようです。現在、熊本県や福岡県を中心に西日本で栽培され、高菜漬けに用いられているのは、明治時代の終わり頃に中国四川省から伝わった「青菜(せいさい)」から品種改良を重ねたもので、肉厚の大きな葉が特徴です。

高菜は、夏の終わりから初秋にかけて種をまき、秋が深まってきた頃に畑に定植します。冬を越して翌年の春が収穫期です。収穫した高菜はすぐに食塩で漬け込み、4カ月ほどかけて乳酸発酵させます。よく漬かった高菜はつやつやとしたべっこう色になります。

近年は浅漬けにも人気が高まっていますが、しっかり漬け込んだ古漬けが本来の高菜漬けの持ち味。独特の古漬け香とぴりっとした味わいを生かすため、また繊維が比較的かたいため、食べるときには細かく切るのがおすすめです。漬物としてそのまま食べるだけではなく、古漬けをみじん切りにして油炒めにしたり、ごはんと炒めて高菜めしや高菜チャーハンなど、料理の素材としても人気があります。

また、同じ高菜を使った郷土の味に、和歌山県や三重県、奈良県の「めはりずし」があります。これは、浅漬けにした高菜の大きな葉をそのまま使っておにぎりを包み込んだものです。まん丸の大きなおにぎりが、「目を見張るほどおいしい」「目を見張るほど大きい」というのが名前の由来だといわれています。