発酵食品名鑑

日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
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かぶ

【野沢菜漬け】

信州を代表するかぶの変種の菜漬け

信州・長野で漬物といえば真っ先に思い浮かぶほど、ポピュラーなのがこの「野沢菜漬け」です。別名「三尺菜」ともいわれる通り、葉が1メートル(三尺)近くにもなる「野沢菜」の大きな葉と茎を漬け込んだものです。

今から250年ほど昔、長野県・野沢温泉街の一角にある健命寺の僧が京都に修行にいき、天王寺かぶのタネを持ち帰ったのが、野沢菜のはじまりといわれています。地元では「御菜(おな)」と呼んで大切にしており、健命寺ではいまでも畑に野沢菜を栽培し、その子孫を「寺種」として販売しているそうです。

野沢菜はかぶの仲間ですが、根は肥大せず、おもに葉を食べる葉菜です。地元では3月に種をまいていったん種をとり、ふたたび8月~9月に種をまいて、畑に霜が降りはじめる11月に収穫します。

畑から抜いたらすぐに根を切り取って漬け込みです。湯でしんなりさせた野沢菜を大きな桶にそろえて並べ、塩をふって…と交互に何段も重ねたあと、重石をのせて乳酸発酵させます。漬け込みシーズンの野沢温泉では、地元の人たちが温泉の湯で菜洗いしている風景が見られます。

漬け込みから数日で、みずみずしいおいしさの野沢菜漬けができあがります。浅漬けが人気の野沢菜漬けですが、春まで漬け込まれたものは発酵がすすみ、べっこう色になって酸味とうま味が増します。この古漬けは、そのままはもちろん、炒めものにしてもおいしく、地元長野県では郷土食「おやき」の具にしたりします。

ところでこの野沢菜、かつては地元の人たちだけが食べる地域的な漬物のひとつでしたが、信州に訪れるスキー客を通じて全国的に人気が高まり、現在では広く一般的に知られています。