2010年度のテーマは、「国際化と食」。キャンパスの国際化を「食」という視点からとらえ、文化的多様性を学び、理解しあう活動を行いました。また、新入生の「食」リテラシー向上を目指し、学生たちの手で、これらの活動をまとめたガイドブック「駒場を食べよう」を作成し、新入生に配布しました。
キリン食生活文化研究所は、4月12日(火)、2010年度の「食」を考えるKIRIN・東京大学パートナーシッププログラムの活動を振り返る総括報告会を開催しました。
東京大学で「全学自由研究ゼミナール 駒場の『食』を考える(=通称「食ゼミ」)」を担当している渡邊雄一郎先生をはじめ、国際化拠点整備事業(グローバル30)で留学生の受け入れを担当されている先生方より、「国際化と食」について様々なレクチャーがありました。
日時: | 2011年4月12日(火)10:00-12:00 |
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場所: | キリンホールディングス株式会社 本社 |
講師: | 東京大学教養学部 板津木綿子先生、ボイクマン総子先生、齋藤希史先生、渡邊雄一郎先生 |
板津木綿子先生
ボイクマン総子先生
東京大学でグローバル30を担当している板津先生とボイクマン先生からは、海外の大学における国際化の動向や、大阪大学と名古屋大学の視察を通して感じたことをご報告いただきました。
■世界各国のどの大学も積極的に国際化に取り組んでいる。いろんな文化、いろんな経験を持っている人達に東京大学に来てもらい、そのダイバーシティを活かして日本人の学生も外国人の学生もそれぞれの可能性を広げていきたい。そのためには、東京大学でも留学生の生活の基盤となる食環境の多様化を進めることが大切である。
■大阪大学や名古屋大学の生協食堂では、“組合員の生活の文化的経済的改善向上を図る”ことを目的とするという組合の理念に基づいて、宗教上の理由によって食に制限がある留学生たちへの対応として、ハラール食(イスラム法上許されるもの)を提供している。
■大阪大学では生協の補助金を得て「ハラルフードパーティ」を開催するなど、留学生委員会が中心となって、自分たちの食環境の充実に熱心に取り組んでいる。留学生が受身ではなく、主体となって活躍する場を持つということはとてもすばらしい。
■その他両大学とも、留学生センターで、様々な地道な活動を通じて多面的に留学生の「食」への対応について、取り組んでいる。
■「“よそ者”とは、今日来て明日去ってしまう人ではなく、今日来て明日も留まる人である」という言葉が社会学者ジンメルによって残されているが、「留学生」とはその名の通り、日本社会を構成する一員である。よそ者=異質であるために、共同体の規範を打ち破るきっかけを与えてくれる存在になるものと考えると、彼らの生活の向上を図ることが日本の社会に貢献するものになるともいえる。
齋藤希史先生
比較文学や比較文化を研究している齋藤希史先生からは、ベトナム、ソウルの経験、中国の「食」についての考察などを語っていただきました。
■教養教育は、知識を単なる知識ではなく、自らの経験や体験とつなげてこれから生きていく上で、どういう風に活用できるか、意味を持つかについて自ら考えられる人を育てることだと思っている。そういう観点からすると、食という切り口はとても重要。
■東京大学が2005年から実施している「東アジアリベラルアーツイニシアティブ(EALAI)」は、学内外からいろいろな講師を招いて話をしてもらうプログラム。例えば、「五感で学ぶ東アジアの伝統文化」という講義では、「中華料理はもともと京料理と似たようなものだった。強火で炒める技法は、かなり新しい。唐辛子が使われるようになったのは、“たかだか”400年ぐらい前のこと」といった話を聞くことができた。単に、中国の文化を学ぶだけでなく、既成概念を崩すことによるインパクトは大きかったと思う。
■その他講義のテーマとしては、以下のようなものがある。
- ・アジアと食──グローバル化の中で
- ・食料・農業政策提言のワナ
- ・食料・農業と貿易の国際的枠組み──WTOとTPP
渡邊雄一郎先生
渡邊雄一郎先生からは、シンガポール大学を視察した際に感じられたことなどのお話がありました。
■研究者同士も食を通してつながっている。来訪者を囲んで、またディスカッションの場としてなどに、キャンパス内の食堂が活躍している。
■企業がサポートして、研究をバックアップしているレストランもある。
■色々な出身の方がいるため、どれか一種類にあわせるというのではなく、それぞれの持っている文化をそのまま受け入れ、様々な選択ができるようになっている。
報告会の最後は、キリンホールディングス相談役 荒蒔康一郎による講評で締めくくられました。
■食は、全ての人の存在の基本。見る→感じる→知る→理解する というプロセスをどう深めるかが重要である。