第5回 のどが渇くと、冷たいビールを飲みたくなるのはなぜ? Paul A.S. Bresline
炭酸水を飲みたくなる理由
世界の多くの国では、居酒屋や喫茶店で水を注文すると、炭酸水か、炭酸の入っていない普通の水かを尋ねられます。その際、私見ですが、炭酸水を選ぶ人の方が多いように感じます。その理由についても考えてみましょう。
炭酸水は、口の中をわずかに酸性にして刺激を与えます。のどへの刺激が、渇きを癒やす助けとなったり、より強い爽快感を与えたりするのではないでしょうか。これは、冷たい水が好まれる理由とも関係がありそうです。例えば、アイスクリームを食べ過ぎると口の中が痛くなるように、冷たい水には、わずかに刺激性があります。炭酸の刺激には、その冷感を強める効果があります。ということは、実際には同じ量であっても、炭酸水の方が、より多く飲んだように感じられるのではないでしょうか。
レモンやライムを入れて酸性にするのはなぜ?
冷たい炭酸水やビールにレモンやライムなどの果汁を入れる飲み方が好まれるのも気になる点です。レモンやライムを入れると、飲みものに香りがつくほか、酸性度も強くなるでしょう。もしも、酸性にすることで炭酸や冷水の刺激が強まり、より冷たく感じるようになるのなら、渇きを癒やす効果もより高まると考えられます。この仮説は、いずれ実験で証明するつもりです。
のどで知覚されるホップの苦味
冷たく、炭酸の刺激があり、酸性であるビールは、「ホップの苦味」という重要な特徴をも兼ね備えています。これもまた、のどの渇きを潤すことに貢献しているかもしれません。水がのどを冷やすのは飲水中のみで、飲水の知覚という意味で、のどの役割は特別です。 モネル研の研究により、ホップの苦味は、口腔内の通常の味覚を感じる部分ではなく「のどで知覚される」という点において、他の一般的な苦味と異なることが分かっています。私は個人的に、のどで感じるホップの苦味が、酸や炭酸、冷水のピリピリする刺激感と相互作用し、のどの飲水感を強める可能性があると考えています。この仮説も実験で証明しなければなりませんが、ここで述べたさまざまな仮説が事実であれば、冷水と炭酸の刺激にホップの苦味を組み合わせたビールは、わずかに酸味も感じられ、すぐに渇きを癒やすための理想的な飲みものといえるでしょう。
- ※ただし、ビールなどのアルコール飲料は脱水症状が起こりやすいことも知られていますので、水分補給もしながら気をつけて楽しむことをおすすめします。
文:Paul A.S. Bresline/ 訳:キリン食生活文化研究所
PDF書類を開くためには、「Adobe Reader 7.0」以上のソフトが必要です。
お持ちでない場合はこのボタンをクリックしてください。
ダウンロードサイトにジャンプします。
Q&A
- Q.1 ホップの苦味は、のどの感覚と重なっているとのことですが、他の苦味とどこが違うのですか?
- A.1
ホップの苦味は、口の中で感じる部位が、他の苦味と異なります。ホップの苦味だけは、ほとんどの人が咽喉部の後ろで感じるようです。 - Q.2 ナトリウムとカリウムとのバランスが、恒常性(ホメオスタシス:生体の内部や外部の環境が変化しても、その生体の状態が一定に保たれるという生物の性質や状態)を保たせていると思いますが、のどの渇きは、このバランスと関係しますか?
- A.2
はい、その通りですが、のどの渇きは、「水を飲みたい」という心理的な状態をいいます。塩気のほとんどない食事をすると、すぐにナトリウムイオンと他のイオンとが不均衡状態になります。そして、均衡を保とうとして、ナトリウムイオンが欲しくなります。逆に、塩辛いものを食べるとナトリウムイオンが体内で多くなるので、それを薄めるために、すぐにのどが渇きます。これらの現象は、塩味への反応として身体が学習したものと思われますが、なぜこのようになるかは調べられていません。