加齢による、嗅覚と味覚の変化 Beverly Cowart

においの種類による違いや、個人差も

加齢に伴う嗅覚の衰えについては、さまざまな研究結果が出ていますが、においの種類や衰え方に均一性があるかどうや、個人差については、今なお議論が続いています。
においの種類による嗅覚の衰え方の違いについては、あまり報告例がありません。多くの研究では、高齢者のグループと若い成人のグループを単に比較する試験しか行われず、特定のにおいに対する感度が衰えはじめる時期や衰え方に違いがあるかどうかを調べるための試験が行われていないケースがほとんどだからです。25年も前の話ですが、モネル研と『ナショナルジオグラフィック』誌が、読者を対象に、6種類のにおいを用いて行った研究(National Geographic Smell Survey,1986)では、一部のにおいに対する知覚力が、他のにおいよりも早期に衰えることが示唆されています。たとえば、バラの香りは80代や90代の人も知覚できましたが、メルカプタン(危険を知らせる警告臭として都市ガスなどに添加される悪臭)のにおいは、相当数の人が中年期の早い時期に知覚できなくなっていました。
一方の個人差については、高齢の被験者の間で、嗅覚能力に著しい違いが生じることがしばしば報告されています。高齢者の中には、平均的な若い成人に匹敵する嗅覚能力をもつ人もいます。この違いに、遺伝的、医学的、環境的要因が関係しているかどうかは分かっていません。

味を感じるしくみ

次に、味覚についてです。味覚には、「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味」の基本味があります。それぞれに反応する味覚受容体もまた、口の中にすみついているウイルスやバクテリア、菌類、知覚の対象となる化学物質自体によるダメージを受けやすくなっています。ただし、味覚受容体は神経上にあるのではなく、特殊な上皮細胞上にあって、約2週間ごとに入れ替わります。 また、味覚受容体は舌表面の広い範囲に散在しているだけでなく、上顎の奥、食道、咽頭、咽頭蓋にも存在し、それらの受容体が受け取った刺激は、3つの脳神経が複数に枝分かれして脳に伝達されます。こうした特徴により、味覚システムは大きな損傷から保護されています。

味覚と老化との関係

嗅覚の衰えと比べると、味覚は生涯を通じて比較的安定しています。味覚機能を評価する方法は、嗅覚機能の評価方法とよく似ています。味覚の閾値感度試験と、閾値よりも上の濃度の味覚試験のどちらにも、加齢による能力低下が見られますが、こうした衰えは、味質に特有(苦味の場合は、化合物に特有)なものであることが、モネル研とキリンビールとの共同研究で明らかになっています。「甘味」の味覚には加齢による衰えは認められず(主にサッカロースによる実証)、「塩味」「酸味」「苦味」の味覚は、閾値でも、閾値より上の濃度でも、嗅覚よりもゆるやかに衰えていくというのが、これまでの研究での大勢的な見解です。「うま味」については、第5の味覚として欧米で広く受け入れられるようになって間もないため、加齢による影響を調べた研究は、まだ多くはありません。
味覚の生涯にわたる変化についての大規模な研究例は少ないですが、嗅覚と同様に、通常、味覚が顕著に衰えはじめるのは70代あるいは80代以降だと思われます。

部分的な味覚機能喪失が原因で、味覚障害が起きる可能性も

ただし、これまでに述べた結論はすべて、口全体の味刺激に対する知覚を調べた結果にすぎません。いくつかの研究では、高齢者は、舌の味覚機能を部分的に失っている傾向がかなり高いことが示唆されています。しかし、舌の正常な部分によって味覚の機能が補われるので、影響は小さいとはいえますが、モネル研とトーマス・ジェファーソン大学病院の味覚嗅覚外来が共同で行った臨床研究では、味覚機能の部分的な喪失が原因で、味覚機能の欠損や慢性的な味覚の幻覚などの医療的支援を必要とする味覚障害が、高齢者に発症する可能性が示唆されています。

文:Beverly Cowart / 訳:キリン食生活文化研究所

<出典>

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