日本各地の発酵食品をご紹介します。世界の食文化研究の第一人者、石毛直道の「発酵コラム」も必読です。
【信州味噌】
関東大震災と終戦が、全国流通のきっかけ。
全国随一の生産量をほこる信州味噌。淡いクリーム色に近い色合いと、少し辛口の味わいが特徴です。その信州味噌が、なぜこれほどまでに広まったのでしょうか。そのきっかけは歴史の大事件にありました。
そもそも信州で味噌づくりが普及したのは戦国時代、武田信玄が兵糧として「川中島溜まり」をつくらせたのがきっかけといわれています。
時は流れて1923(大正12)年、関東大震災で東京は壊滅的なダメージを受けました。もちろん、味噌蔵も多くが被害にあいました。この時に援助物資として信州味噌が送られ、その名が知れ渡るきっかけとなりました。
さらに信州味噌がポピュラーになるきっかけとなったのが、第二次大戦後の対応でした。何もない焼け野原の東京に、信州味噌がもう一度援助物資としてやってきます。一部では大豆以外でつくった味噌も出回るほどの終戦直後の食料難の時に、品質のよい信州味噌が戦災を受けなかった長野から東京へ運ばれ、評判になったということです。
しかし、信州味噌が現在のように受け入れられるようになったのは、滑らかな味わいでおいしいからという大前提があります。
信州には良質の大豆と麹、そしてきれいな水と空気と、味噌づくりに非常に適した環境が整っているのです。大豆は半煮、半蒸にするのが主流で、淡い色合いに仕上げられています。薄く酸味が立ち、サッパリとした感じすらするほどです。クセのない風味なので、様々な料理に合わせやすかったことも各家庭に広まった理由ではないでしょうか。
ほうとう、五平餅など、信州味噌が欠かせない料理はたくさんあります。醤油とザラメを加えて甘辛く仕上げてもおいしく、お味噌汁にしてもうまみと上品さのバランスの取れた万能型の味噌といえるでしょう。