食べ物の好き嫌いは、なぜ生じるのか Julie A. Mennella

今回のテーマは、「食べ物の好き嫌い」です。意外なことに、味の好みの感覚は、胎児のころから発達を始めるそうです。どうすれば偏食をなくすことができるのか、モネル化学感覚研究所のジュリー・メネラ教授に書いていただきました。

味覚と嗅覚の果たす役割

おいしいものは食べ、嫌なものは吐き出す。私たちに備わっている五感のうち、味覚と嗅覚は、身体の入り口で、体内に入れていいかどうかを判断する“門番”のような役割をしています。つまり私たちは、味覚と嗅覚の感覚の強度によって、食べるものを選んでいるのです。
味覚と嗅覚は、栄養面で健康管理をする役割も果たしているといえます。というのは、どんなものを食べるかによって、人の身体は変わってくるからです。生まれてから身体がどんどん大きくなっていく成長期と、年齢を重ねた後の肉体や精神の変化に向き合う老年期では、身体が必要とするものも違ってきます。健康的な食事をすることは、それぞれのライフステージで必要な栄養を摂るためにも、とても大切だといえます。

子どもの肥満解消に不可欠な栄養バランス

皆さんもご存じのとおり、子どもの肥満の増加は、公衆衛生上の大きな問題となっています。IOTF(国際肥満対策委員会)によると、2009年現在、体重過多または肥満の状態にある学童年齢の子どもは、全世界で1億5500万人おり、年々増加しています。
アメリカにおいても、代表的な子どもの栄養性疾患が肥満です。このような傾向に歯止めをかけるには、栄養面での指導が欠かせないことから、米国疾病対策センターや世界保健機関などが後援する「Eat 5 a day(1日に野菜と果物を5品目食べよう)運動」のように、健康的な食事を推奨し、果物や野菜を多くとるよう呼びかける取り組みを、世界的な動きへと発展させていくことが急務です。ちなみに、アメリカの子どもたちが最も多く食べている野菜料理は、フライドポテトです。

味の好みの感覚は、胎児のころから発達する

子育ての経験がある方なら、どなたもご存じだと思いますが、子どもは好きなものばかり食べ、嫌いなものは激しく拒絶します。そして、甘いお菓子や塩辛いスナック、清涼飲料、フライドポテトのような油分の多い食べ物が大好きです。これは、十分なカロリーとナトリウムをなるべく摂取しようとする、生物としての本能からくるものですが、偏食は、学習、特に早い時期からの学習によって矯正することが可能です。

これは、モネル化学感覚研究所の研究で明らかになったことですが、人間の味の好みに関する発達は、母親の胎内にいるときから始まります。胎児は、羊水を通じて、母親が摂取した食物の風味や匂いを感じています。そして、生まれたあとも、母乳を通じて風味を感知します。こうした、羊水や母乳を通した体験が、離乳期に初めて口にする固形食への好き嫌いを決定づけます。つまり、果物や野菜嫌いの子どもにしないためには、妊娠中や授乳期間中に、母親が積極的に果物や野菜を食べることが望ましいといえます。さらに、2歳の頃に食べていたものは、多くの場合、大人になったあとも好きな食べ物になることが分かっています。