食べ物の好き嫌いは、なぜ生じるのか Julie A. Mennella
科学的に見た離乳食の与え方
私は20年以上にわたり、味の好みの個人差を研究してきました。そして、発達、学習、遺伝子の視点を取り入れ、食品だけでなく、母乳を介したアルコールやタバコなどの影響についても取り組んできました。その目的の一つは、人々が健康的な食生活を送れるよう、科学的根拠に基づく指針を提供することにあります。というのも、赤ちゃんへの離乳食の与え方ひとつとっても、良いといわれている方法のほとんどは経験則に基づいたもので、科学的根拠に基づく情報が非常に少ないからです。
私たちの研究室では、偏食をする子にならないための離乳食の与え方について、一連の実験を行いました。その結果、母乳で育てられた赤ちゃんも、人工栄養で育てられた赤ちゃんも、栄養的に優れた1つの食品を受け入れると、他の同様の食品も受け入れやすくなることが分かりました。詳しい実験内容は下記のとおりです。
偏食防止に重要な、離乳食の可能性
実験では、生後3~6カ月の赤ちゃんを対象に、ニンジンを初めて食べたときの摂取量と、一定の期間食べ続けた後での摂食量を比較しました。すると、初めて口にするときは食べる量が少ないですが、9日間、ニンジンを毎日与え続けた後では、10日目の摂取量が明らかに増えました。子どもの好き嫌いをなくすためには、離乳食の段階で、同じものを継続して食べさせることが大切なのかもしれません。
さらに、別の実験では、いろいろな種類の野菜を食べていると、初めて食べる別の野菜も受け入れやすくなることが分かりました。生後3~6カ月の赤ちゃんに、エンドウ豆、ジャガイモ、カボチャを交互に9日間与え続け、10日目に初めてニンジンを食べさせたところ、他の野菜を与えられずにニンジンを食べた赤ちゃんよりも、ニンジンを食べる量が多かったのです。つまり、離乳食の段階でいろいろな味に慣れさせておくと、好き嫌いをなくせる可能性があります。
遺伝子の影響
何を選んで食べるかは、学習だけでなく、遺伝子による味覚感受性にも左右されます。ある種の苦味に対する大人と子どもの感受性は、苦味レセプター遺伝子TAS2R38の差異から推測することができます。私は、モネル研の同僚であるペピーノ、リード両博士と共同研究を行い、遺伝子に影響される苦味の感受性は年齢につれて変化する場合があり、特定の苦味物質に対する子どもの感受性が、大人よりも強いことを発見しました。
そのため、たとえ親子であっても、大人と子どもでは、味の好みが異なる場合があります。苦味に対して過剰に反応する子どもを野菜好きにするのは難しいことかもしれません。味の好みや、食べ物の選び方には個人差があります。私たちは、なぜ食べ物の好みが生じるのか、学習と遺伝子の影響がどのように相互作用するのかを、研究を通じて明らかにしたいと考えています。それが分かれば、もっと多くの果物や野菜を子どもたちに食べさせることができ、人々の健康に大きく貢献できることでしょう。
文:Julie A. Mennella/ 訳:キリン食生活文化研究所
<出典>
Mennella JA, Johnson A, Beauchamp GK. Garlic ingestion by pregnant women alters the odor of amniotic fluid. Chemical Senses 20: 207-209, 1995.
Mennella JA, Jagnow CJ, Beauchamp GK. Prenatal and post-natal flavor learning by human infants. Pediatrics 107: e88, 2001
Mennella JA, Pepino MY, Reed DR. Genetic and environmental determinants of bitter perception and sweet preferences. Pediatrics 115:e216-22, 2005.
Mennella JA, Pepino, MY, Duke F, Reed DR. Age modifies the genotype-phenotype relationship for the bitter receptor TAS2R38. BMC Genetics 11: 60, 2010.
Forestell CA, Mennella JA. Early determinants of fruit and vegetable acceptance. Pediatrics 120: 1247-54, 2007
Gerrish CJ, Mennella JA. Flavor variety enhances food acceptance in formula-fed infants. American Journal of Clinical Nutrition 73:1080-1085, 2001
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Q&A
- Q.1 大人よりも子どもの方が強い感受性を持つ特定の苦味物質とは?
- A.1
PROP(6-n-propylthiouracil)です。PTC(phenylthiocarbamide)と同様に、遺伝的な味覚感受性を調べる物質です。PROP/PTCともに、ある一定の濃度で「非常に苦い」「苦い」「苦くない」の3種類の反応に分類できることが知られており、苦味レセプター遺伝子TAS2R38は、 PROPとPTCを特異的に受容することが報告されています(*)。大人よりも、子どのほうが「非常に苦い」と反応する傾向があることから、大人とは異なる感受性を持っている可能性が考えられます。
*Meyerhof W: Rev Physiol Biochem Pharmacol. (2005) 154: 37-72 - Q.2 2歳の頃の食生活が、その後の好き嫌いに影響するのはなぜですか?
- A.2
その理由を探るのが、私たちの研究の目的でもあります。感受性の高い乳幼児の時期に学習したことが、一生を通じて強い影響を及ぼす可能性がありそうです。 - Q.3 母乳を介したタバコやアルコールなどの影響に関する研究で、どんなことが分かっていますか?
- A.3
どのようにして子どもたちがタバコとアルコールを覚えるかというテーマで研究を行い、両親のタバコとアルコールの習慣のレベルと、それぞれの子どものタバコとアルコールのにおいに対する反応を調べました。その結果、アルコールやタバコを摂取する頻度の高い両親に育てられている子どもの方が、においを許容しました。詳しくは、下記の論文を参照してください。
Julie A. Mennella, Catherine A. Forestell Alcohol 42 (2008) 249-260
Julie A. Mennella, Catherine A. Forestell Psychology of Addictive Behaviors2005, Vol. 19, No. 4, 423-432 - Q.4 2歳の頃に野菜を食べる訓練をしなかった子どもでも、小学生や中学生、高校生になった後、野菜の好き嫌いをなくすことはできますか?
- A.4
大きくなった子どもの食習慣を変えるのは困難です。しかし、野菜は体にとって良いものだという情報を与えながら、嫌いなものでも繰り返し食べさせることが効果的であるという、Leann Birch氏らの研究結果もあります。