特定の食品を無性に食べたくなる「食物渇望」 Marcia L. Pelchat
今回は、無性に食べたくなる(渇望する)食品について、モネル化学感覚研究所のマーシー・ペルチャット准教授に書いていただきました。
食物渇望とは何か
食物渇望(food craving)とは、特定の食べ物を食べたくて我慢できなくなる激しい欲求のことです。通常の食品選択とは欲求のレベルが違うことと、食べたい物が偏っている点が重要です。空腹感とも異なります。空腹ならどんな食べ物でも満たせますが、食物渇望の場合特定の食べ物でしか渇望を満たせません。
起こりやすさと、肥満との関係
食物渇望になる人は多く、栄養上の問題も大きいため栄養学的にも関心を持たれています。モネル研がアメリカで行った調査によると、若年成人女性のほぼ100%、若年成人男性の約70%が、過去1 年以内に一度以上、食物渇望を経験していました。ただし、女性は年齢が上がるにつれて減少する傾向があります。また、食物渇望が肥満の一因になる場合もあります。一般的に、食物渇望の人はBMI(肥満度指数)が高く、間食を好み、ダイエット・プログラムに従うことができず、過食する傾向が強くみられます。
男女差はあるか、どんなものを食べたくなるか
食物渇望の起きやすさと、対象となる食べ物には男女差があり、女性の方が起きやすいといわれています。また、男性はピリッとした風味(Savory)のものを、女性は甘いものを渇望しやすいとの報告があります。こうした男女差は文化の違いにかかわらずみられます。
一般的に渇望の対象になりやすいのは脂肪分の多い食べ物です。デザートや塩味のスナック、パスタなどの高炭水化物食品や、ハンバーガーなどの高タンパク質食品の場合もあります。なぜ脂肪分に対して強い欲求が起きるのかは今後の研究課題です。
渇望対象の食品には、文化的な違いもみられます。アメリカの若年成人が渇望する代表的な食べ物はチョコレートとピザですが、日本では寿司に対する食物渇望が報告されています。日本での研究は興味深く、今後も有益なものとなるでしょう。
食物渇望の度合いを測定するには
現在のところ、食物渇望と実際の摂取量などの関係を明確に数値化する基準はありません。そのため、問診が最も良い評価方法になります。しかし、これまでに発表された問診の基準は、単なる空腹感や情動的摂食(ストレス食い)と混同される傾向があり、扱いが難しいものでした。そこでモネル研では次のような簡単な方法を開発しました。
(1) 短期的な評価:左右に引いた直線上の1点をマークさせ、現在の欲求の強さ(主観強度評価)を記録
(2) 中期的な評価:過去24時間または過去1週間に生じた欲求を申告させる
(3) 長期的な評価:過去1年間に渇望したことのある食べ物の数と種類を申告させる
また、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いてモネル研が行った研究では、渇望に関連する活性が、脳の記憶と習慣に関連する部分に見られることが分かっています。これは、「レモンパイではダメでチョコレートでないと渇望が満たされない」といった食物渇望の感覚特異性を裏付けるものといえます。将来、問診が疑わしい場合の測定方法として役立つようになるかもしれません。このほかモネル研では渇望時の食べ物への妄想や衝動の個人差を調べるために、食物渇望が起きたときの精神状態に関するアンケートも開発しました。