病気による体臭の変化 Kunio Yamazaki
今回は、病気によって体臭が変わるかどうかという話題です。体臭によって、がんなどの事前診断ができるようになれば、画期的なことです。モネル化学感覚研究所(モネル研)の山崎邦郎教授に書いていただきました。
動物の個体には、特有の「におい型」がある
個々の動物は、それぞれ独自のにおいによって識別されています。私たちは、「におい型」という、遺伝的に決められた個々のにおいがMHC遺伝子群(主要組織適合性遺伝子群)によって影響を受けていることを明らかにしました。この遺伝子群は、臓器や組織、細胞などの移植の際に、異なる個体間で生じる拒否反応の原因となる個体特有の抗原系を支配しているのですが、体臭を個体特有の「におい型」にする上でも、支配的な役割を担っていることが分かったのです。
「におい型」は、個体固有の抗原系が合成される際の副産物や、代謝分解される際に生じる生成物の複合臭として形成されていると考えられます。そこで今回は、個体のにおいの研究と並行して研究室で行っている「病気のにおい」について、乳がんと肺がんの研究例を紹介します。
病気によって体臭が変化する例
がん患者は、特有な体臭を生ずるといわれます。そのため、以前から、がんの進行に伴う患者の体臭の変化を、がんの早期発見や診断に利用しようという研究が行われていました。
体臭の変化は、他の病気でもよく知られています。例えば、糖尿病の患者の尿は、甘い特有なにおいがします。また、ある遺伝子が突然変異な人は、アスパラガスを食べると、腐ったキャベツのような、揮発性の含硫化合物 (S-Methyl thioacrylate と S-Methyl-3-thiopropionate) のにおいのする尿が出ます。これらは、驚くには当たりません。なぜなら、病気になると当然、身体の代謝が変わり、におい物質の遊離や増加がみられるからです。天然痘にかかると独特な悪臭が生じますし、腸チフスは焼きたてのパンのような体臭、統合失調症は刺激的なにおい、フェニルケトン尿症はカビ臭いタオルのようなにおいがするなど、体臭の変化は、いろいろな疾患にみられます。