2009年度のテーマは、「作り手と食べ手にとっての、良い食べ物、良い食べ方」。食の背景にある社会・文化・科学的な営みを多面的に学ぶことで、「考えて食べる」ことを目指し、駒場祭や公開セミナーでの発信も行いました。
キリン食文化研究所は、10月24日(土)「作り手にとってのいい食べ物」をテーマとしたワークショップを、2部構成で開催。
第1部は、食品メーカーの視点から捉えた“いい食べ物”に関する講演と、「作り手の想いを食べ手に伝える方策」についてのディスカッション。
第2部は、“農業が産業として成り立つための仕組み”に関する講演と、「10年後の水田農業のあり方」についてのディスカッションを行いました。
日時: | 2009年10月24日(土) |
---|---|
場所: | 東京大学駒場キャンパス |
講師:
第1部(13:30~)
株式会社ナガノトマト
マーケティング部部長
舟渡知彦
第2部(15:00~)
東京大学大学院
農学生命科学研究科長・農学部長
生源寺眞一
同日の第2部は、東京大学・生源寺眞一農学部長を講師とした「転機に立つ日本社会と食料・農業のゆくえ」という講演。ここでは食料問題に関する国際環境の分析をプロローグとし、フードセキュリティの問題や日本の農業が抱える課題や、新政権下での農政に言及する内容となりました。
講師の生源寺氏は、フードセキュリティや食料自給率に関して詳しく解説し、参加者の理解を促していました。講演の後半では、日本における農業の現状にも触れ、ブレのない農業政策、次世代農業の担い手確保の重要性を強調。また“10年後の農村”をテーマとしたグループディスカッションでは、参加した学生たちによって「農業を産業として成立させる方策」についての議論が行われました。
冒頭で生源寺氏は、食料市場への投機的資金流入、燃料用利用をめぐる政策変更、輸出規制など不安定要因の増大による世界的な価格高騰の現状を解説。その後に、食料総量としては不足していないにもかかわらず、購買力の偏在が問題となっている「食料保障」としてのフードセキュリティの問題を紹介しました。
講演では、日本における食料自給率の変遷も取り上げられました。カロリーベースと生産額という2つの指標を持つ自給率と、日本の食生活の変化や農業の特徴の関連に対する指摘は、農業を産業として捉える場合の重要なヒントとなりました。
また、「食」が経験財から信用財(消費体験だけでは真の品質を知ることができない商品)としての側面が強まっているというご指摘から、情報発信の重要性を再認識しました。
講演終了後には、「10年後の水田農業のあるべき姿」をテーマとした参加者によるディスカッションが行われました。
参加者たちは、人材の獲得、コミュニティ定着など新規従事者を増やす困難さがある中で、いかに農業を産業として成り立たせるかを議論。「日本の米をブランド化し輸出産業にする」「新たな技術開発・流通形態の確立によって、魅力ある産業にする」「グリーンツーリズムや農業体験を斡旋し、若い担い手を増やす」といった意見の他、「企業参入、業務のマニュアル化によって若者が就職しやすくするなど敷居を下げる」「土地貸与の問題など行政の法改正を進める」といった意見が出され、最後に生源寺氏は次のようにコメントしました。
「10年後を考えた議論を重ね、その上で“明日どうするか”を考えることが大事。そして自由な発想や知恵が、今後の農業には必要になる」
- ■10年後の農村のあるべき姿を考えるということは、非常に難しい問題だと感じました。グループディスカッションでは農業の担い手について議論したのですが、自分だったら果たして農業に従事する覚悟を持てるか、ということを考えさせられました。
- ■農業の本質を知る上で一番大事なのは、現在の姿、つまり今の農村で何が起こっているのかを知ることだと思いました。また、現状の「食」「農」の問題を知ることはもちろん、同世代の人たちとのディスカッションを通して認識や考え方の違いを感じることができました。農業の今後を考える上でも、非常にためになる議論ができたと思います。