「食」を考えるKIRIN・東京大学パートナーシッププログラム 2009年度

2009年度のテーマは、「作り手と食べ手にとっての、良い食べ物、良い食べ方」。食の背景にある社会・文化・科学的な営みを多面的に学ぶことで、「考えて食べる」ことを目指し、駒場祭や公開セミナーでの発信も行いました。

ワークショップ5 山梨研修合宿 ~農作業体験/都市と農村の交流

キリン食生活文化研究所は東京大学と共同で、11月7日(土)・8日(日)の2日間にわたり山梨における研修合宿を開催。農作業体験や農業を支える人々の交流を通じて、農業の理想と現実、そして私たちの「食」との関連を考えました。
一日目は耕作放棄地で有機農業を実践している五風十雨農場での農業体験とディスカッション、二日目はNPO法人“えがおつなげて”の古民家で、都市と農村をつなぐ活動についてのご講演をいただき、学生の立場で両者の交流のために何ができるかのディスカッションを行いました。

【1日目】
日時: 2009年11月7日(土)
場所: 山梨県北杜市白州町「五風十雨農場」
講師: 五風十雨農場代表 向山邦史/農場長 藤巻佳史
【2日目】
日時: 2009年11月8日(日)
場所: 山梨県北杜市須玉町 えがおつなげて研修施設「開拓館」
講師: NPO法人えがおつなげて 野澤智博
  • 1日目
  • 2日目

「農業の現実を知り、そこから“食”を考える」というテーマで開催された今回の研修合宿には、総勢約30名が参加。山梨県の五風十雨農場に到着後、まずは実際の農作業を体験することになりました。
最初に、同農場内のレストラン「こふく亭」でも使用される薪づくりを体験。木材を切り出すためのチェーンソウ、鉈を使った薪割りなど、初めての経験に戸惑いながらも、学生たちは積極的に作業に参加していました。また、機械を使った大豆の脱穀や、干しいもとなる「玉豊」の収穫作業も行った学生たち。その作業の大変さと共に、自分たちの“食”の源となる農作業に楽しさを実感していたようです。
作業後には、「こふく亭」で地元産の有機野菜を使った料理を堪能。講演では、五風十雨農場代表の向山邦史氏、農場長の藤巻佳史氏から、作り手にとっての“良い食べ物”に関して、その提供の難しさなどをレクチャーしていただきました。

“自給自足”への道程

講演の中で代表・向山氏は、耕作放棄地を地元の地主から借り受けて開墾を行ったこれまでの歩みや、レストランの調理ではガスや電気を使わず薪ですべてまかなっている、冷蔵庫や夜の照明、水のくみ上げなどに使う最低限の電力は太陽光発電したものをバッテリーに蓄電して用いていることなど、完全自給自足を目指す五風十雨農場の試みを紹介しました。
また、農場長・藤巻氏は「レストランは、女性を中心にリピーターが増加している」としながらも、「農産物の対価の安さなど、自給自足を目指す農業の収益性には難しさもある」と指摘しました。
講演のまとめとして、向山氏は次のように語りました。「理想の姿は、農場全体として採算を取り、そしてそれを継続していくこと。そのためにも、自給自足で食をまかなうことが、消費者の体にも、そして地球環境にも良いという事実を、多くの方々に知ってもらう必要がある」

実体験を元に考える「農場活性化」

講演後のディスカッションでは、参加した学生たちが「農場をどう活性化させるか、どのように集客するべきか」というテーマで議論しました。
この議論の中では「閉鎖的になる可能性がある“自給自足”。その魅力を知らせるためには食べること以外のきっかけも必要」という意見が出され、アグリツーリズムや農業体験、周辺の古民家を宿泊施設として活用するなどの取り組みが提案されました。また「食育の拠点として広くアピールする」「NPOや観光事業者との連携、イベントの開催」という案も出されました。それらの取り組みによって、消費者の意識改革を目指し、作り手側が考える“良い食べ物”を広く知らしめていきたいという議論を受け、代表・向山氏は「イベント、キャンプなど、気軽に参加できる仕掛けは必要。そのためにも、地域と連携して宿泊施設の充実も図りたい」と締めくくりました。