「食」を考えるKIRIN・東京大学パートナーシッププログラム 2009年度

2009年度のテーマは、「作り手と食べ手にとっての、良い食べ物、良い食べ方」。食の背景にある社会・文化・科学的な営みを多面的に学ぶことで、「考えて食べる」ことを目指し、駒場祭や公開セミナーでの発信も行いました。

ワークショップ6 「食べ手にとってのいい食べ物」 ~医学的見地から/五感で食べ物と向き合う

キリン食生活文化研究所は、12月12日(土)「食べ手にとってのいい食べ物」をテーマとしたワークショップを、2部構成で開催。
第1部は、医学的見地から“食べる”ということを考える講演と、「体に良い食べ物」についてのディスカッション。
第2部は、“五感を使って食べ物と向き合う”体験プログラムや、食文化に関する講演が行われました。

日時: 2009年12月12日(土)
場所: 東京大学駒場 II キャンパス

講師:

第1部(13:30~)
東京大学医学部付属病院
アレルギーリウマチ内科
医師・医学博士
関谷剛

第2部(15:00~)
フードコンサルタント
サカイ優佳子

  • 第1部
  • 第2部

第2部 “五感を使って食の世界を探検しよう! 講師:フードコンサルタント サカイ優佳子

「視覚に過度に依存する普段の生活では、視覚以外の人間の感覚は閉じられていってしまいがちです。“食べる”という主観的な行動を通して、意識的に五感を使いながら食物に向き合うことを考えてみたいと思います」
講演の冒頭でそう語ったのは、フードコンサルタントとして活躍するサカイ優佳子氏。「五感を使って食の世界を探検しよう!」というテーマに沿った体験プログラムの開始です。
最初の体験は、カップの中身を嗅覚だけで判別するというもの。アルミホイルで閉じられた紙コップに顔を近づけ、中身を推察していきます。
“舞茸”を、チョコやバニラと間違うなど珍回答に盛り上がる参加者に対して、サカイ氏は「この体験によって、普段よりも食材への興味が増したのではないでしょうか。食育など、様々な取り組みが成されていますが、まずは“食”に関心を持つことが大切です。そんな思いから、こうしたプログラムをみなさんに体験してもらっています」と語りました。

テスト結果が実証する「五感の大切さ」

続いては、触覚だけで食材を判別し、それを言葉にしていく体験。人間は、大人になるにつれ触覚から離れてしまい、また言葉にする際にも先入観に支配されがちになる点を指摘しつつ、感触を言葉にしながら食材をイメージする体験の狙いを、サカイ氏は説明しました。
「日本語は他の言語に比べ、食感を表す言葉が多いと言われています。食材の感触を意識することは、食感を大事にする日本の食文化を見つめ直すきっかけになるのではないでしょうか」
その後の体験プログラムでは、食材が盛られた皿の色から視覚的に影響を受けることや、先入観によって味の判別に狂いが生じることなどを説明。その結果を踏まえてサカイ氏は、五感をオープンにして“食”に向き合うことの大切さを強調しました。

食文化を支え、良い食べ物を選ぶために必要なもの

フランス在住経験を持つサカイ氏は、日本の食文化との違いを次のように述べました。
「チーズを買う際には、まず香りを確かめ、指で感触を確かめた後に買うのがフランスでは一般的。お店の人との会話が多いのも特徴です」
フランスではコミュニケーションが食文化を支えていると指摘するサカイ氏は、35歳以下の農業従事者も多いフランスの農業事情にも言及しました。
「フランスでは、“味覚教育”を全国の小学校で実施しています。これには、伝統的な食材や料理を作る職人が作り出す本当の味が分かる国民を育てることによって食文化を守っていこうという狙いがあるのです。日本との大きな違いではないでしょうか。」
最後にサカイ氏は、「良い食べ物とは、自分の体がその時に欲しているものだと思います」と語り、自身の欲求を感じ取る五感の重要性を伝えるとともに、五感は使えば使うほど開いてくると締めくくりました。

フランスのマルシェ 写真:サカイ氏提供

学生の感想

■自分にとっての「よい食べ物・よい食べ方」について、理想や希望も含めて自由にお書きください。

  • よい食べ方は、自分自身で食べもの、食べ方を充分に考え、判断して食べることだと思います。
  • よい食べものといえば、安全な食べものだと今まで考えていたが、今日のワークショップで、精神面、栄養面のバランスが大切だと思った。
  • 食べていて幸せになれるもの。食べる時間が楽しいので、楽しめる食べもの→変化に冨み、食後に後悔しないもの。たとえ多少身体に悪い食品を1回食べても数回の食事でバランスをとっていければよい。ストイックになりすぎず、楽しみたい。孤食も淋しいととらえるだけでなく、一人でも楽しむ工夫もできると思う。

■その他、ワークショップに参加して感じたことなど

  • 「ごはん」「食」に対して真剣に取組むようになった。昨年から一連のワークショップに参加して、食にはいろんな側面があり、奥が深いということが印象に残った。
  • 「食」の「安全」と「安心」の違いについて、よく考えるようになった。
  • 「食」を選ぶ際に、検討する要素が増えた。食べることに興味がさらに増した分、難しくなってしまった。食の流通の裏側をもっと知りたい。