今回は東京ピクニッククラブという団体を主宰されている、太田浩史さん(建築家/デザインヌーブ一級建築士事務所代表)にお話を伺いました。ピクニックの語源はどうもフランスで使われ始めた表現で、「pic=さす」、「nic=しんらつな」から来ているとのことです。こうしたピクニックの歴史を調べる太田さんは、ピクニックとは社交であると定義します。しかも大人同士の、そして比較的きちんとした社交だと言います。そしてお茶(紅茶)の文化とも繋がっていると言います。その始まりは1802年3月15日、ロンドンで「Pic-Nic Club」という団体が屋内で余興を行い、飲んで踊って社交パーティーをしたことから始まるそうです。当時は、男女が目を合わせる事もはばかれる時代、そんな中この唄って踊るパーティーは社会のひんしゅくを多いに買ったそうです。しかしそうした社会の攻撃とは裏腹に、このピクニックは、その後ロンドンの社会に広く浸透していくそうです。
始めは室内で行われていたピクニック、それが外での活動へと変わっていくには、そして社会に大きく広がっていくには3つの大きな時代の変化があったそうです。1つ目は紅茶文化の普及する1800年代、2つ目は休日と公園が整備される1850年代。そして3つ目が、車が登場する1900年代、そこでは車に積めるようなピクニックセットもたくさん登場します。ちなみに東京ピクニッククラブは、今や世界で最も多くのアンティークのピクニックセットを有しているとか。その数120セット。
東京ピクニッククラブは2002年10月に発足。ロンドンのPic-Nic Club生誕の200周年を祝してのものでした。活動はメンバーと一緒にピクニックをするのはもちろん、毎年大きなイベントを日本や世界各地で行い、既存のピクニックの楽しさのみならず、新しいピクニックの楽しみ方を発見し提案し続けています。
東京ピクニッククラブでは、ピクニックとは何かという事を調べひも解いていきながら、広く普及させるためにその心得を15にまとめています。とてもわかりやすいのでご紹介したいと思います。
こうした心得を通して、ピクニックにはキャンプと違って役割がないというのもなるほどとうなずけるところでした。とかく難しく考えがちな集団行動を、なるべく自由に、負担をかけずに自主性に任せるところが大人の社交と言われる所以なのかもしれません。またその食事のメニューも、できるだけ簡単に、時間をかけずに、しかし感動をどうつくるかという点がポイントだと言います。少し太田さん達が行っているピクニックでの料理をご紹介しましょう。右の写真は、メンバーであるフードコーディネーターの1人が持ってきた、保冷剤代わりにもなる凍らせたグレープフルーツジュース。現地に着く頃にちょうど溶けてシャーベット状になったところにアマレットを加えるという、味も見た目にも素敵な食前酒。
次の写真は、太田さんとともに東京ピクニッククラブを共同主宰している、伊藤香織さんによるサーモンのキッシュ。容器が食べ物になり、ゴミをださない究極の食べ物と言います。しかもオーブンにいれるだけの簡単な準備で、季節の野菜と共に旬を楽しめるとか。
こうした料理への工夫も、建築家という創造的な仕事をする太田さんならではと感心しました。大人の、しかも外で行う社交の場というピクニックですが、お話をお伺いしながら、その想像力と美意識がひいては日常のくらしをも変化させていくのかも知れないと感じました。きっとピクニックでの経験から、家の中の食卓や料理への気遣いが生まれるはずです。日々の暮らしの中でも、ほんの少しの工夫で周りの人に驚きや楽しみをつくっていくこと。ピクニックは日常のくらしの豊かさに目を向けるきっかけとなっていくとも言えそうです。
みなさんも「ピクニック」を始めてみてはいかがでしょうか。きっとくらしに対する発見があるでしょう。