今回は秋田五城目でシェアビレッジという「村をつくろう」という参加型の村づくりプラットホームの構築をしている丑田さんに話をうかがいました。
村民と年貢
このシェアビレッジの構想は2015年秋田五城目でかやぶきの民家の活用のためにつくったプロジェクトに端を発しています。古い民家を再生するのに、会員を募り、会員自らがその修理に参加し、そこを宿として使っていきました。関わり方も多様でした。そのプロジェクトでは、会員を村民と呼び、会費を年貢と呼んでいました。2015年5月からはじめたその活動は、あっというまに日本中にその活動が広がり、2000人を超える村民がかかわるようになり、その中でも定常的に数年間関わった人は移住や多拠点居住といった暮らし方へとつながっていきました。しかし拡大していく一方で、より適切なコミュニティーの規模のあり方を模索し始めました。
村を閉じて、仕切り直す
一旦その村を閉じて、シェアビレッジのより適切な規模を模索すると同時に、同じような構想で村作りをしたい人を応援するプラットホームをつくりたいと考えました。そこでは関わる人たちが自らの考え方や構想に合わせて、多様なスケールでの村づくりを始めています。たとえばキッチンをシェアする人も、遊び場をシェアする人も、倉庫や使われなくなった施設の再利用など、その試みはさまざまですが、シェアという考え方のもと、ある場所や空間を使って、関係性を膨らましてコミュニティーをつくっていくという仕組みです。それは小さな社会とも言えます。その中に初めは投資や会費というかたちで、小さな経済を組み込んでいきます。下のウェブサイトはShare Villageのウェブサイトです。ここではこのプラットフォームをつかって、さまざまな活動が紹介され村人が募集されています。また村の中で使われるコミュニティ通貨のアプリも用意されています。はじめの投資や会費が、その後の経済システムの中でコミュニティ内の人の関係性を良くしていくためのツールとして発展していくことも想定しています。
5棟の住宅でつくる村
ウェブ上で紹介されているプロジェクトに加えて、実験村として丑田さん自身も直接的に関わる「5棟の住宅を含む村づくり」が始まろうとしています。秋田の五城目の山あいの遊休地に、地域の森林資源とデジタル建築技術を活かした集落を建設するという試みです。5組の家族が出資して5つの住宅をもち合い、同時にこの村づくりに参加する村民も募集されます。合計で100人から150人ぐらいの人での村運営を計画しています。関わる人達は自分の利用形態に応じて出資や会費を支払うことで利用権をもらいます。このように一つの村、いくつかの住宅をたくさんの人でシェアしながら一緒につくることで田舎暮らしの資金や近隣との関わりのハードルをさげて、村づくりの楽しさ、可能性を広げていこうとしています。
目指す未来の姿
日本は今すでに人口縮小が始まっています。それに伴い経済も縮小していくはずです。そうした社会状況の中で未来の暮らし方は、今はまだない多様な暮らし方としてこの「村づくり」はあるような気がします。それは個人で土地や不動産を所有するのでなく、仲間と共同で所有し、利用するということ、コミュニティを一緒に作り一緒に住むということです。そしてそのコミュニティの盛り上がりがその不動産の価値を生み出していくのです。そこには今までの物としての、投資対象の不動産という価値観とは大きな違いがあります。コミュニティの価値が加えられているのです。また社会的な変化も大きく影響してきます。今、大都市に住み、そこで働くことにも疑問が生まれ始めています。それはこの200年の資本主義経済の中の綻びとも言えるかもしれません。未来への不安と同時に、人々が楽しいとか、感動するシーンが都市の中よりこうした田舎の中にあるのだと思えてきたのかもしれません。丑田さんは作家山口周さんの考えを引用してこのシェアビレッジの暮らしを説明していました。社会は役に立つのかたたないのか、意味があるのかないのかという二軸をつかって4象限で考えて見ます。前提として今までの経済圏や社会が求めてきたものを、役に立って意味がうすいものとしています。大量生産される日用品はその代表でしょう。便利ですが、そこにそのものの価値を求めたりはしていません。一方その対局にあるのが、役にはたたないけれど意味があるものです。それが村づくりだというのです。そうした事柄に人間は喜びや楽しみを見出すのでしょう。お金では買えない人との関係性や感謝の気持ち、自然とのつながり、さらには働くことの意味などを見出していきます。収入を得るために働くのではないということや、田舎暮らし、縮小経済の中で暮らす意味を見出し始めてもいるのです。新しい生き方をもとめて、村づくりは人々の心を動かし始めています。そしてその人と人との関係性にフォーカスするときに、シェアという共同でものを所有することで、人の関わりが増大する仕組みづくりに大きな意味があるのです。もちろん時代はゆるやかに変わっていくものです。今日から都会暮らしを捨てて田舎に住むという訳にも簡単に行かないでしょう。シェアビレッジはそうした人たちの田舎に暮らし始めるハードルを下げていく良い方法です。その中から移住をする人も、また副業をする人も、お金を必要としない暮らしをする人もさまざまな生き方をする人が生まれてくるに違いありません。まさに未来の社会づくりの一歩がこの村づくりなのです。
村の運営と資金
先の5棟のプロジェクトの資金の運用のしかたを説明しましょう。少し簡易的に説明します。住人はお金を投資して、合同会社(LLC)を組織しそこにお金を貯めます。建設に必要な資金はそこから使い、足りない分は銀行借り入れをします。投資額も家を1年間にどのくらい使用するかという割合と、保有したい持ち分の視点で投資額を決めます。たとえば年間を通して住む人が仮に2000万円の投資だとすれば、半年の人は1000万円、3ヶ月の人は500万円といった具合です。そして誰も使わない期間を村づくりに参加する会員に2拠点居住・多拠点居住できる権利を付与します。利用がかさならないように住人同士で調整し合います。また会員同士でもこの宿泊の権利を譲り合います。こうして利用することも村人内での調整によって行うこともコミュニティの関係性を深めることにも役立ちます。宿泊者の中には、単にのんびり過ごす人も、また村づくりの作業を手伝う人もいるでしょう。村づくりやコミュニティ活動にコミットしている人には周りの人が感謝の気持ちをコミュニティ通貨を渡して、その通貨を使って、ある期間過ごす人もでてくるでしょう。権利を主張するというより権利を譲り合っていくという、こうした社会の仕組みがこの村の運営を支えます。さらに住む住人も、一生そこに住むとは限りません、また3ヶ月住もうと思っていた家族が、半年住むことも、通年で住むことも、考えられます。その時は使用形態に応じて使用権利を変更していきます。また会員の中の誰かが、住宅の権利(LLCの出資持ち分)を購入して、それを引き継ぐこともできるでしょう。村に住むことのハードルを下げると同時に、出ていくことも安易な新陳代謝の仕組みがあることも考えられています。閉鎖的な村社会にならない仕組みも考えています。
建築のつくりかた
「5棟の村」この村の建築は、VUILDというデジタル工作機械をつかった建築チームが設計としてサポートしています。このツールを使って基本の骨組みの木材を、地域の里山から切り出した木材を加工し、会員、すなわち村人の人たちで組み立てていきます。そのことによって安い費用でできることは重要ですが、さらにつくるプロセスを共有することこそ、そのコミュニティの絆を育てていくことにもなります。住んだ後のメンテナンスなども自分たちでできるようになります。丑田さんはこの建設プロセスについて、かつての集落での家づくりを思い起こしたと言います。それは地域の木材や屋根材(かや)をその場所で育て、伐採し、乾燥させ、村人全員で一つの家をつくっていた時代の家づくりです。そこには、お互いに労働力も提供し合い建物を完成させていくプロセスがあったのです。そこに注目しながら、デジタル工作機械という高度に発達した、かつだれでも簡単に使える技術を利用しながら、かつての共同作業と似た環境を作ろうとしています。また5棟の家に150人が関わるという、そうした母集団の関係人口もこうした共同作業の負担を減らすよい仕組みと言えそうです。
今後の展開
「シェアビレッジ」の今後の展開についても聞いて見ました。ウェブサイトで紹介されているような各コミュニティがその地域にひとつだけに留まるのではなく、その周りに、小さなプロジェクトが30、50とできていくことを想像しています。それは住宅だけでなく、コワーキングスペースや倉庫、温泉施設など、さまざまなものが含まれます。それぞれが小さなコミュニティで運営され、それが重なり、使う人が自分に必要な、または関心のあることへ参加していくような複相的な社会を考えています。全国に広がりつつあるこの活動は近い将来、それらの活動が重なり、1000,2000と日本の中にあらわれることを構想しています。地域を越えて複数のコミュニティに参加することもあたりまえになっていくでしょう。さらに一度できたコミュニティも変化しながら、場所や空間の使い方もステージによって変わっていくでしょう。初めからすべてを決めるのでなく、状況に合わせていくその変化こそがコミュニティのあり様だとも言えそうです。過疎に向かっていく田舎の街ですが、その街の中も一様に人口が減る訳ではありません。何もしないところは寂れていきますし、人が集まりだすとその場所は栄えていきます。変化はかならずある、変化こそに進化があると考えています。
新しい血と古い血は時間をかけて混じり合う
また既存の住民との交わりの中であたらしい動きも始まります、かつての茅葺きの村造りでもはじめの数年は遠目で見ていた近隣の人たちも知らないうちに、よく来る住人と親しくなり、家に泊まったり、新しい活動を一緒にはじめたりと環境は少しずつ変わっていくことを経験したそうです。一見すると知らない人たちが古い街にやってくるという、まるでゲリラのような動きは、あとから振り返ると街が生き残り、知らないうちに人が集まってくる仕掛けなのかもしれません。まちは長い時間をかけて変わるものです。その一歩は誰かが初め、そしてだれかが持続させるのです。その意味でこのプラットホームはそれらの構想の一歩目を支援し、それを続けるための情報共有と応援のツールとなのです。その実現のための知恵の共有とつながりの中から創造はうまれます。このプラットホーム自体もシェアであり、関係性構築のための試みと言えます。
みなさんはこうした小さな村づくりに興味はありますか?
未来の可能性があると感じますか?ぜひウェブサイトを覗いて、未来の社会について考えて見てください。
プロフィール
丑田 俊輔(うしだ・しゅんすけ)
シェアビレッジ株式会社 代表取締役
1984年生まれ。公共施設をまちづくり拠点として再生する「ちよだプラットフォームスクウェア」、日本IBMを経て、2010年に教育事業を展開するハバタクを創業。2014年より秋田県五城目町在住。
茅葺古民家を舞台にした村づくりの実践を土台に、2021年、共創型コミュニティプラットフォーム「シェアビレッジ(Share Village)」を公開。