西荻窪の閑静な住宅地にあるコミュニティキッチン(地域で共有するキッチン)「Okatteにしおぎ」の設計をした山田貴宏さんに取材しました。山田さんは日本のパーマカルチャー(*1)の先駆者です。
コミュニティキッチンができるまで
「Okatteにしおぎ」は、オーナーの竹之内さんから、コミュニティ支援事業をしている影山(*2)さんと建築家山田さんに、「子供達が巣立った後の家を有効活用したい」という相談があって始まったプロジェクトです。ある程度方向性がかたまったところで、近くの人やこのスペースを使いたい人を呼んで勉強会を続けたとのこと。結果として4人が住めるシェアハウスと、町に開かれたキッチンのあるコミュニティスペースをつくることになりました。
運用は会員組織で、会費は月1000円、現在100人強の会員がいます。会員は好きな時にいつでもキッチンを使え、お茶を飲んだり仕事をしたり。子供をつれたママ会という使い方をしている人もいるようです。会員間でSNSを利用して、「これからいくよ」とか、「誰かこない」と声を掛け合い、時間の合う人が自由に集まるのだそうです。今では、町の人たちの共同のキッチンとして定着しつつあるようです。また、すぐ近くに共同菜園もあり、みんなで野菜を育て、一緒に料理をするという取り組みもしています。駅から徒歩15分のこの場所まで遠くからも通ってくれる人がいるそうです。
コミュニティをどのように育てるか
地域を中心としながらも、会員がゆるく広がっていることも大切な要素です。多様な人々がいることが、コミュニティが自律的かつ自然に育つために必要なことだと、山田さんは言っています。「Okatteにしおぎ」では、大きな方針はあるものの、細かな計画はあえて作らずに、成り行きを見守っていくという姿勢を貫いています。そのことが来る人に心地よさを作り出しているのではないでしょうか。
山田さんは次のように言います。「コミュニティを育てるには、最初から一つの方向にもっていこうと決めるのでなく、そこで起きる様々なことに寄り添っていくことが大切です。それは自然の植物が育つ環境と似ていて、多様な植物の存在が最適な環境を作り出すという生態系の仕組みに似ているのです。」つまり、多様な人々が織りなす様々な化学変化を楽しむということなのでしょう。
最初から完成型を目指すのでなく、生態系を構成するそれぞれの部分を調和させることで、全体も自然に調和されていくというパーマカルチャー的視点ともいえそうです。
パーマカルチャーの考え方を取り込みながら、徐々にその輪を広げている「Okatteにしおぎ」。月に一度、手作り市(Okatte商店街)を開催しており、会員でなくても誰でも参加できます。みなさんもぜひ一度のぞいてみてはいかがでしょうか。
- *1 パーマカルチャーとはパーマネントとアグリカルチャー、カルチャーを合わせた造語。オーストラリアの生物学者ビル・モリソンが暮らしの体系を、「農的暮らし」を中心としてまとめたもの。地球環境に負荷をできるだけかけないことを基本とし、菜園の作りかた、土の作りかたをはじめ、家の作りかたまで広く体系化。この考え方は今では世界中に広がっている。現在各地でエコビレッジの建設や、都市の中で農的環境に優しく、社会的にも健康的な暮らしを実践するトランジション運動などに大きな影響を及ぼしている。日本では1996年、神奈川県相模原市藤野町にパーマカルチャーセンタージャパン(PCCJ)が設立された。藤野町の人口は約1万人。そこに100人近い、パーマカルチャーに関心のある人が移住した。また、現在まで1000人近い人が、2週間強のPCCJ主催研修プログラムを受講。その結果、藤野にはある種の共通の価値観が醸成されている。山田さんはPCCJの講師も務めている。2011年から自らも藤野に移住。4家族が共同で住む、通称「里山長屋」と呼ばれる菜園付き住宅で暮らしている。
- *2 影山さんは以前このコーナーでも取材した「クルミドコーヒー」店主。「シェアする暮らしのポータルサイト」や、Okatteにしおぎの運営をサポートする「N9.5」というコミュニティー支援事業も行っている。
「ゆっくり急げ」もうひとつの経済の地平線
https://wb.kirinholdings.com/future/hint/13.html
Okatteにしおぎのウェブサイト
プロフィール
山田貴宏(やまだ・たかひろ)
1966年生 千葉県出身
1992年 早稲田大学建築学科都市環境工学専攻修了
1992〜1999年 清水建設株式会社
1999〜2005年 一級建築士事務所 長谷川敬アトリエ
2005年 一級建築士事務所 ビオフォルム環境デザイン室 設立
設計事務所登録 東京都知事登録第51420号
一級建築士(一級建築士登録 第279526号)
主に国産材と自然素材を活用し、地産地消でかつ伝統的な木の家造りを中心とした建築/環境設計を行う。パーマカルチャーのデザイン手法・哲学を背景とした住環境づくりをめざす。建物とそれを取り巻く自然まで含めた幅広い環境と場づくりがテーマ。
画像提供:PHOTO BY MIKI CHISHAKI