泉山さんは都市や地域を会社に例えるならその運営をどうしていくかということ(=エリアマネジメント)を研究しています。かつての街をつくることが主眼であった都市計画の時代から、今では魅力ある持続可能な街となるためにはこの運営こそが鍵になると考えているからです。同時にソトノバというパブリックスペースの使い方の情報を集め,実践的な研究会の場も運営しています。
今回は都市経営の専門家の泉山さんに、街の魅力とは何か、そしてコロナの影響で都市はどう変わっていく可能性があるのかを6月23日に伺いました。
(本記事は6月23日に実施したインタビューをもとに作成しております。)
都市の魅力は偶発性
都市の魅力とは人々にとって経済面での効率的な場所というだけでなく、偶発性というのがあります。人やもの、場所や情報など、人々は偶然にであっていく興奮を都市では多く味わうことができます。特に東京のような大きな都市ではこの偶発性がいたるところに散りばめられています。特に東京は世界一公共交通網が整っている街です。そのことによって人々は車でなく電車で移動するためにさらにこの偶発性は高まっていきます。人と人の出会い、素敵なお店やカフェ、飲食店なども、興味が湧けば、歩いていればすぐにのぞけます。今コロナによって都市の中心部に行けなくなりこの偶発性が街の中から消えようとしています。それは我々がうしないつつある大きな感覚かもしれません。
コロナの影響で都市の魅力はどう残っていくのか
今回のコロナの影響で、いくつかの企業が本社を大都市の中心から移転し、緊急事態宣言解除後も、在宅勤務を基本とする企業も現れています。多くの人が圧倒的に家にいる時間が増えているはずです。そのことでオフィス街は今壊滅的な状況になりました。今まで発展して来たビジネスの中心街から人がいなくなっていったのです。またオフィス街だけでなく娯楽や買い物を中心とした商業地にも行きづらくなりました。こうした状況で都市はどうなっていくのでしょうか。リモートワークが主流になれば働く場所の近くのお店にもいかなくなります。最近広がりつつあるコワーキングスペースや様々な交流を目的としたイベントも都市の中心にある存在意義が問われ始めているのです。最近大学の授業もリモートで行なっていますが、授業は進むものの、そこで失われているのは廊下のような人が雑談したりする目的のない空間や人との関係性です。大学一年生は入学してもいまだ友達がいないのです。このことは今の都市の状況も似ているかもしれません。
家の近くを魅力的にする
こうした状況について、今までオフィスの近くにあったものが家の近くに求められるのではないかと思います。都市の魅力である偶発性を人々は変わらず求めるものであり、家からはでたいと思うものだと言います。確かに家の中で長く過ごすとたまには外にも出たくなるでしょう。散歩をしたり、買い物にいったり、家の近くを動くことになります。その時に家の周りに感じのよい店や、人と出会えるようなお店があるとうれしいはずです。今まで住宅街だった場所に居心地のよい決して大きくない店舗や飲食店といった商業エリアの魅力が増していく可能性があります。大きな街ではなく、自分の家の近くの場所の価値が自分の暮らしの楽しさや欲求に大きく影響してくるのです。人々は今まで以上に自分の住まいの付近の近隣の街区にもっと目をむけるはずです。今までの交通の乗り換えを起点にした都市の中心部の開発から考える都市計画に対して、小さな魅力的なエリアが集積して大きな都市がつくられていくという新たな都市のあり方がうまれるかもしれません。都市がもつ偶然性はなくなるのでなく中心部から家の近くに移動する可能性があります。そしてそれは人を起点にしたつながりというかたちで、心地よい空間として魅力をつくります。馴染みのお店や適度に新しい出会いなどもそこで生まれるでしょうし、そこには今までの偶発性とは違うつながりの深さや、価値観をともにするという選択的なつながりができるかもしれません。
タクティカル・アーバニズム
私は、研究のかたわら、公共空間の活用の方法をさぐるメディア「ソトノバ」という組織を主宰しています。ソトノバが注目する手法のひとつにタクティカル・アーバニズム(戦術的アーバニズム)があります。この考え方を提唱したマイク・ライドンは,ジェイン・ジェイコブスの言葉を引用し,「都市計画には戦略があってもそれを実行する戦術がない」と紹介しました。戦術とは戦略をいかに着地させるか、実装するかです。そして戦略を立てるより戦術から入っていくという方法をとります。大きなことから始めるのでなく小さなことを実験的に行い、検証しながら高速で進めて行く手法です。有名になったのはアメリカ・ニューヨークのタイムズスクエアなど公共空間に椅子やテーブルを実験的においたりしながら街の中にあらたな人が集う場所をつくったことでした。どのような家具を、そしてどのように置いたらいいのか、実際にやりながら検証をしていくのです。こうした積み重ねによって都市は大きく変わります。その前に取り組んだブルックリンも同様の手法をつかってたった数年で街が生まれ変わりました。かつて倉庫街で人通りも少なく危険なエリアとなっていたこの場所は今ではカフェや小さなお店、スタートアップ企業などがこぞって出店するおしゃれな街へと変革していきました。こうした小さな場所から始めるまちづくりも、今回の家の周りの小さなエリアの魅力づくりにも通じるのです。
私が今いちばん好きな街はメルボルンです。毎年(日本が)冬になるといっています。決して大きくない街ですが、街区のなかにある路地裏(レーンウェイ)に様々な小さなお店があり、歩くだけでも楽しいのです。こうした路地裏を歩く楽しさ、そこで偶然見つけるお店やバーなど、そうした場所にふらっと立ち寄ってみるのがとても楽しいのです。これも先ほどの住まいの近くの小さなエリアの魅力づくりと通じます。
住まい手が都市をつくる
今回の取材を通して、感じたことは、都市の未来は専門家でもコントロールできるものではないといこと。しかしライフスタイルの変化が街を変えていくはずです。そしてコロナの影響によって強制的に私たちのライフスタイルは大きく変わりました。しかし人間の都市に住むという欲求は変わらず残り続けるのでしょう。その時に都市のありかたを論じる以上に、自分の住まいの周りのエリアがどうなっていくのか、そのためにも「つくること」以上に「どう運営するのか」がそのエリアの魅力をつくっていくにちがいありません。彼の研究である、「街を運営する仕組み」がますます進化し、制度も充実し、市民が自らの手で街を魅力的にすることができる時代が近づいているとも言えそうです。今回のコロナの先行きは誰にもわかりません。もしかすると何事もなかったようにまた元に戻るかもしれません。しかし今回経験した学びは、どこかで都市の未来のあり方を変えることにつながるかもしれません。今回の取材を通してほんの少しそのありようのイメージが湧いて来ました。
みなさんは、これからの都市の未来どのように考えますか。ご意見お寄せください。
プロフィール
泉山 塁威(いずみやま るい)
・都市戦術家|Tactical Urbanist|Placemaker
・日本大学理工学部建築学科 助教
・一般社団法人ソトノバ 共同代表理事・編集長
・一般社団法人エリアマネジメントラボ 共同代表理事
1984年北海道札幌市生まれ/日本大学大学院理工学研究科不動産科学専攻博士前期課程修了/明治大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了/博士(工学)/認定准都市プランナー/アルキメディア設計研究所、明治大学理工学部建築学科助手、同助教、東京大学先端科学技術研究センター助教などを経て、2020年4月より現職。 専門は、都市経営、エリアマネジメント、パブリックスペース。タクティカル・アーバニズムやプレイスメイキングなど、パブリックスペース活用の制度、社会実験、アクティビティ調査、プロセス、仕組みを研究・実践・人材育成・情報発信に携わる。
主な著書
「楽しい公共空間を作るレシピ プロジェクトを成功に導く66の手法」
「ストリートデザイン・マネジメント:公共空間を活用する制度・組織・プロセス」、など。
主な受賞
「黒石市こみせ再生提案競技・保存修理部門―現存する「こみせ」による歴史的町並みのストリートマネジメント― 優秀賞」など
Twitter:@RuiIZUMIYAMA
Instagram: https://www.instagram.com/ruilouis/
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