未来のヒント

NVC(Nonviolent Communication)
―(人と人とに命を吹き込む法)~非暴力コミュニケーション講師 KOKOさんに聞く~

KOKOさんと出会ったのはもう15年ぐらい前で、xChange という、自分では使わないけれど大切な洋服にメッセージをつけて交換するというイベントを始めた方としてお会いしました。そのイベントは日本中の様々な場所で行われるようになり一世を風靡しました。KOKOさんは、その後2011年の東日本大震災をきっかけに東京から四国に移住、そしてタイ、その後コスタリカに移住します。ヨガインストラクターをおこないながら、コスタリカに住んでいたとき、今回紹介するNVCに出会います。今は日本とコスタリカを行き来しながら暮らしています。めまぐるしく拠点を移していますが、その姿には自分の気持ちに正直に、自分らしく、そしてより幸せに生きるための生き方の追求をしているのだと感じています。今回は日本に戻ってきた機会に取材をさせていただきました。

NVCとは人の生き方そのものを問い直す

今回紹介するNVCは日本語では非暴力コミュニケーションと訳されています。NVCは、誰とも戦わないためのコミュニケーションの方法で、共感コミュニケーションという言い方をする人もいます。1970年代にマーシャル・ローゼンバーグという臨床心理士が開発したコミュニケーションの方法で、現在では紛争や戦争で疲弊した地域やコミュニティーで平和な世界を作り出すための方法として利用されています。世界中に数百名のトレーナーもいます。KOKOさんはこのNVCに9年前に出会って以来このメソッドの素晴らしさに引き込まれ、その普及とトレーニングの活動をしています。 NVCとは人の生き方そのものを問い直すそうです。上司と部下、親と子、先生と生徒、あらゆる人と人の関係が、だれが良いとか、悪いとかではなく、みんな等しく平等で、みんながつながっていくことだそうです。分断された社会に対してこの平等なつながりを取り戻していく方法なのです。

NVCのトレーニング

NVCのトレーニングでは、以下の自分や他人に対しておきていることを1観察、2感情、3ニーズ、4リクエストという4つに意識を向けていきます。

  • 観察:評価を交えずに、その行動を冷静に観察していく。
    (いつもとか、決まってというような評価を交えない)
  • 感情:その行動によって引き起こされた自分の感情を見つめていく。
    (怒っているとか、苛立っているとか。)
  • ニーズ:さらに本当にほしいもの、必要なことが何かを考えていく。
    (もっと理解してほしいとか。もっと一緒にいたいとか。もっと話したいとか。)
  • リクエスト:自分の要求は、なにかを見つけ出し相手に伝える。
    (相手にしてほしいこと、具体的な行動を伝える)

本当に自分が求めていることはなにかを知っていくというトレーニングです。このトレーニングを繰り返していくことで、相手に心の底から与えていくという感情にたどり着きます。言葉の中にある暴力をなくし、あらゆる相手の言葉を受け止めていく、理解していく、人と人との関係に命を吹き込んでいくのでしょう。

NVCは生活のヨガとも呼ばれ、マットの上でするヨガや座禅を組んでする瞑想にたいして、生活の中のあらゆる時にも、心の状態を無の状態にしていくための訓練だそうです。これはメソッドではあるのですが、ただ学んで終わりではなく、日々のトレーニングを積み上げてそのスキルを上げていくことが重要です。瞑想は無言でするものですが、このNVCは話す瞑想、聴く瞑想という言い方もあるそうです。まさに生活の中での瞑想とも言えるのです。

「聴く」ということ

そのトレーニングがどのようなものか、ちょうど取材当日の朝のセッションでの話をしてくれました。その日は一人の落ちこんでいる女性がいたそうです。その様子に気づいて彼女に話かけます。彼女はやはり大変辛いことがあり悲しみに打ちひしがれていました。KOKOさんは、その悲しみに心を寄せて自分もその悲しみを一緒に感じていきます。アドバイスや慰めを言うのでなく、ただただその悲しみを一緒に感じていくのです。相手に共感すると言うのは、心からわかる、その感情を一緒に抱くと言うことだと説明しながら、その日の朝の感情がこみ上げてきたのか、目に涙を浮かべていました。そしてその方は、「わかってくれるんですね。ありがとう。」と言ってくれたそうです。そのわかるということ、相手の心の状態を理解していくということ、それが日々のトレーニングなのだそうです。
私たちはどうしても、誰かの話を聞いた後、何かを言いたくなるものです。反論やアドバイス、または同情など、そして時には自分の経験にあてはめたり、さらに安易に激励したりするものです。しかし心の底から相手の話を受け止め、その感情に寄り添っていくこと、そのことがNVCにおける「聴く」という行為です。

コスタリカでのエピソード

もうひとつ、コスタリカでの彼女の暮らしぶりでのエピソードがあります。よそもののKOKOさんが地域の長老の人たちからとても大きな信頼を得ていると聞いたことがあります。そのことについても伺ってみました。
コスタリカに移住した時、いろいろな村人がKOKOさんに会いに、そして話にやってくるのですが、初めは気の利いたことを言わなければならないとも思ったそうです、しかしこのNVCのトレーニングを受けているKOKOさんは、ただ聴くと言うことに徹しました。まずは聴いてその感情を受け止めて一緒にそこにいるということ。そのうちその人たちとの関係が大きく変わっていったそうです。次々とさまざまな長老たちが訪れるようになります。今ではコスタリカの村でなくてはならない相談者になったようです。答えを出すのではなく、ただ聴く、深く聴く、そして相手に共感することで、みんなの良き相談者になるのです。「私でもできることだからみなにもできるよ」とKOKOさんは言います。

そうは言っても自分のスキルを上げていくには訓練し続けなければなりません。どんな状況でも心安らかな状態を保つことを訓練していくというのは簡単なことではありません。日常の中では、感情が揺さぶられる時が突然やってくるものです。とくに自分が何かしらの形で人から攻撃を受けた時、怒りの感情が湧き起こります。しかし怒りが起きた時こそ深く呼吸をして、その起きている自分の感情を冷静に観察しながら、なぜ自分は怒っているのか、そして自分がなにを望んでいるのかを考えていく必要があるのです。

トレーニングに終わりはない

NVCを開発したマーシャルは、冒頭でも書きましたが臨床心理士でした。それまで学んできた知識を使って患者に向き合っていました。しかしその方法では患者は根本的に治ることは難しかったのだそうです。ところが、アプローチを変えて患者にとって大事にしていることを心からわかってあげた時、そして同じようにそのことを大切に扱った時、病気は回復へと向かうということを発見したのです。相手の大切なもの探していくこと、そのことが治療に役立つことを知って、そこからコミュニケーションのあり方を変えていくこのNVCのメソッドの開発につながっていきます。

私たちは、人の行動に対して評価を交えて捉えてしまいがちです。みなさんの中でも「あなたはいつも○○なんだから」と言ってしまって口論になることはないでしょうか。そこに相手を責め、攻撃しているということを理解する必要があります。

肉体のトレーニングと同じ様に、感情のトレーニングを毎日し続けることで世界が大きく変わるように思います。 みなさんの感想を教えていただければ幸いです。

プロフィール

ニックネームKOKO(本名 丹羽順子)

1973年東京生まれ。
非暴力コミュニケーション講師。
マインドフルな生き方を伝えるため、瞑想、ブレスワーク(呼吸のヒーリングワーク)、セクシャリティーなどのワークや講演も開催している。
元NHK記者、J-WAVE番組ナビゲーター。

画像提供:PHOTO BY MIKI CHISHAKI

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