例えば、納豆、くさや。これらの発酵食品は強い匂いを放ちます。
日本酒やパンなど、良い香りを放つ発酵食品もあります。
これらの匂いは、それぞれの微生物がモノを分解する際、特有の匂い成分を醸し出すからなのです。
また同時に微生物は、アミノ酸等のうま味の成分を醸し出します。
だから、大豆を発酵させた味噌や醤油のように、発酵の前と後とでは全く味の深みが変わってくるのです。
牛乳とチーズ、お米とお酢でも同じようなことがいえます。
微生物にも、それぞれ自分達が生きやすい気候や場所などがあります。
また、ある微生物が繁殖すると、そこには入れなくなる微生物がいたりなど、
微生物の世界でも激しい生存競争が行われています。
発酵食品では、発酵菌が増殖しているので、ほかの菌が生きにくい環境が保たれています。
腐敗菌の繁殖を防ぐことで、食品を腐らせずに長く保つことが可能になります。
例えば、生の牛乳は腐りやすいですが、発酵させてヨーグルトやチーズにすると、長く保存することができます。
乳酸菌が増えることで、腐敗に関係する他の細菌の侵入を防いでいると考えられています。
発酵をつかさどる微生物は多様な栄養成分を生産し、食品の中に蓄積してくれます。
例えば、煮た大豆と、それを納豆菌で発酵させた納豆とを比較すると、
納豆ではビタミンB2が何倍も増加しているなど、栄養成分が高くなるのです。
発酵食品は、まさしく「栄養の宝庫」なのです。
人類と「発酵食品」のつきあいはたいへん古く、今から5000年以上前のメソポタミアやエジプトで、
すでにワインやビールがつくられていたことが、当時の遺跡や石板などの記録からわかっています。
日本では、コウジカビを用いた酒、酢の原型、醤油や味噌の原型がつくられていた記録が8世紀の文献に残っています。
一方、科学の世界では、人類は17世紀に入ってから微生物の存在に気づき、
発酵が微生物によって行なわれていることは、19世紀になってから確認されました。
先人達は、発酵が微生物のはたらきによるとは知らないまま、
長年の経験や発想から豊かな食生活を築き、伝承させてきたのですね。
微生物は「微小で、肉眼では見えない生物」をいいます。
発酵食品に関わる微生物は、「酵母」、 乳酸菌などの「細菌」 、味噌や醤油をつくるコウジカビなどの「カビ」の3つです。
「酵母」は、その多くが生命活動によって、糖分をアルコールと二酸化炭素に分解します。
乳酸菌は、乳酸をつくって、食品に独特の酸味を与えたり、食品全体を酸性に傾けて、
食品の保存性を高めるなどの働きをしてくれます。
また、キムチや醤油、味噌などをつくる場合、酵母と一緒に働くことで複雑な風味をつくり出す乳酸菌もあります。
コウジカビはデンプン質をブドウ糖に変えるアミラーゼという酵素や、
たんぱく質を分解してアミノ酸にするプロテアーゼという酵素をつくりだします。
米とコウジカビでつくられる甘酒には、必須アミノ酸やビタミン類、ブドウ糖が含まれ、
かつては夏の暑気払いに飲まれていました。
『発酵 ミクロの巨人たちの神秘』 小泉武夫著 中公新書
『発酵食品礼讃』 小泉武夫著 文春新書
『発酵と醸造』シリーズ 東和男編著 光琳