「食」を考えるKIRIN・東京大学パートナーシッププログラム 2008年度

2008年度は、第一歩として「食への関心」を取り上げました。食べ比べなどの食体験も交えながら、一番身近な食卓から発想し、「食の未来」のために私たちにできることはないか、様々な角度から考えました。

食卓から食の未来を考えるために ~2008年度ワークショップまとめ

健康で豊かな食生活を続けていくためには一番身近な食卓から発想してみることが大切だと私たちは考えました。
食卓から食の未来を考えるために、私たちにもできること。
「食」を考えるヒントを、東京大学の学生の皆さんと意見交換をしています。

「食」を考えるワークショップ 2008年度を振り返って
~食リテラシーの向上をめざして~

2008年10月からスタートした『「食」を考えるKIRIN・東京大学パートナーシッププログラム』。大学生という食環境が激しく変化する時期に「食」に関するリテラシーを高めるため、さまざまな角度からの取り組みをしてきました。去る4月21日、新年度の受講者を迎え過去の取り組みの紹介が行われました。

【座談会出席者】

  • 東京大学 教養学部 前年度受講生の皆さん
  • 渡邊雄一郎(東京大学教養学部教授)
  • 太田恵理子(キリンホールディングス キリン食生活文化研究所所長)

「食」を考えるヒント

食生活について考えたことはありますか

第一回は食のライフスタイルについて触れましたが、何か興味深かった点や印象に残ったことはありますか?

学生A
食卓調査の結果を基に、大学生の食生活を中心に見ましたが、食のスタイルはさまざまで、どういうスタイルが良いとは一概に言えないと思いました。
学生B
私はジャガイモの食べ比べが新鮮でした。日常の生活の中で食べ比べをするってなかなかできない経験なので面白かったです。
学生C
ジャガイモを食べにきた人もいたくらいですしね(笑)
学生D
私は自炊に対して意欲的な人とそうでない人の違いに、苦いものの好き嫌いがあるかもしれないというのが面白かったです。
太田
料理をするしないよりも、自分の食事を管理するかどうかが大切です。まずは食に対して意識をむけて欲しいと思っています。

第1回 キリン食卓調査から 学生の食卓実態と食リテラシー

キリン食生活文化研究所所長 太田恵理子より、普段の食生活、食に関する知識・料理の能力、食を通じた健康意識からみた食ライフスタイル調査の結果を紹介しました。

《食の体験コーナー》
じゃがいも試食「男爵いも」と「シンシア」

ひとくちにジャガイモと言っても品種により特徴は異なります。この回では「男爵いも」と「シンシア」を食べ比べそれぞれの特徴と違いの意見交換をしました。

食料自給率と環境保全のバランス

第二回は農薬問題や環境保全型の農業を学びましたが、食品を買う際に農薬の使用は気にしますか?

学生A
私は気にします。近所の農家が販売している無農薬野菜を買っています。
学生B
選びたいと思っても、値段の問題があるので難しいです。
学生C
農薬の使用はバランスの問題で、すべて無農薬では自給率は下がってしまうし、総合的に見なければいけないと思います。

野菜の形に疑問を感じたことはありますか?
規格で統一された日本の市場はどう思いますか?

学生A
形がそろっているかどうかよりも値段ですね(笑)
学生B
そう。おいしければ問題ないですね。
学生C
規格品と規格外品を食べ比べしましたが、変わらない。むしろ規格外品の方がおいしいという意見が多かったですね。
学生D
流通者側が、消費者は規格品でないと買わないと思っているのかもしれないしれませんね。
渡邊
漠然とですが、食の流通システムが大きなキーワードなのではと考えさせられた回でしたね。

第2回 農産物の安定生産と環境保全の間で  ~化学農薬と生物農薬の調和

中央農業総合研究センター上席研究員 津田新哉氏より、規格品中心の日本の市場、また環境保全型農業の考え方について紹介していただきました。

《食の体験コーナー》
ピーマン試食「規格品」と「規格外品」

規格適合品と出荷されない規格外品には形以外に何か違いがあるのか。実際に食べ比べをしました。規格外でも形は不揃いですが、肉厚でおいしいピーマンに変わりはないことを確認しました。

貴重な食料を工夫するという発想も大切

第三回は歴史的なアプローチでしたね。この回では、江戸時代の文献を基に当時の食の再現をしましたが、いかがでしたか?

学生A
活字化されていない本の中にも当時の生活のエッセンスがたくさん詰まっている。ひょっとすると、このまま忘れ去られたかもしれなかった知識だと思うととても興味深いです。
学生B
江戸時代にすでに日本を代表する「食」としてお米が挙げられていて、日本人のアイデンティティがお米にあると考えられていたというのは驚きでした。
学生C
当時のレシピもとてもおいしいかったです。
歴史的な切り口で食を考えるって面白いですよね。
学生D
私は、この回の試食のお手伝いをしたのが自炊を始めるきっかけにもなったし(笑)

第3回 米櫃が底をついた日のこと ~江戸における飢饉と「食」の知恵

東京大学大学院総合文化研究科教授 ロバート・キャンベル氏より、江戸時代の文献を読み解きながら、先人の食へ対する考え方や飢饉への備えを紹介していただきました。

《食の体験コーナー》
蕪飯

「御代乃寶」で紹介されている蕪飯を再現しました。飢饉に備えて、豆とかぶで米を増量するという先人の知恵に感動しながら試食しました。豆の香りとかぶの甘みが特徴的でした。

日本の食料自給率の低さは農業離れと表裏一体です

第四回は農家の方の生の声を聞くことができました。実際の生産者の声を聞いていかがでしたか?

学生A
白米の大切さを再認識できました。私は一人暮らしで、普段お米を自宅で炊く機会は少ないですが、お米の違いを知り、おいしいご飯を食べるためにお米だけは高くても、良いお米を買うようになりました。
おかずは我慢できるけれど、お米って主食として一番大切だと思うんです。
学生B
私は食べ物を「物」としてだけでなく、その背景には生産者が必ずいるということを意識するようになりました。

農家へのイメージと実像のギャップ

学生C
農家の仕事って肉体労働だと思っていましたが、頭も使わないとできない職人的な仕事だと気づきました。
学生D
教科書で学ぶ第一次産業のイメージとは全く違いました。イメージと実像のギャップをどう埋めるかは課題のひとつだと思います。
学生E
若い就農者が増えるシステムの構築をしないといけないですよね。
渡邊
農家は医師よりも大事というのが印象的でしたね。医師は病気の時にお世話になるが、食料は毎日欠かせない必需品です。医師に資格があるが、農家にはない。農師という資格があれば、というのは一理ありますよね。

第4回 農業経営の現状と問題点 ~東京の非農家出身の私が23年間農業専業でやってこられたわけ

元農水省職員、現在山形県で農業経営をされている土門秀樹氏より、日本の農業の現状と問題点、実際の農家の厳しい現状を聞きました。

《食の体験コーナー》
お米の比較試食

「はえぬき」(五分づき米と白米)「ひとめぼれ」「コシヒカリ」を 銘柄を見せずに試食しました。また、「はえぬき」の玄米も食べ比べ、品種や精米度合いによる違いを体験しました。

有機農法も発酵の力が活用されています

第五回は実際に農業体験に出かけましたが、実際に土に触れてみた感想をお聞かせください。

学生A
講義で得た知識が農業の現場で生きているのを実際に見て感動しました。
学生B
体力だけではなく、専門知識が無いとできない仕事だと思いました。枝を一本切るだけでも、天候や時間を考慮していますし、他の枝を傷つけてはいけないなど、素人では判断できないことが多々あることを学びました。

食べものに対する見方が変わる

学生C
春菊を生のまま食べましたが、苦いと思っていたら甘かったのにとても驚きました。また、その春菊を持って帰ったのですが、一日も経たないうちにしおれてしまって、それを食べたらとても苦かったです(笑)
スーパーの野菜売場はすごい工夫や努力をしているんだなと思いました。
学生D
スーパーに買い物に行った際、今までは何気なく買っていただけですが、産地を見るようになりました。

第5回 農業体験

水戸市にある「鯉淵学園農業栄養専門学校」で、きゅうりの整枝作業・ボカシ(有機肥料)づくり・ ジャガイモの作付けを体験してきました。

身近な意識改革からはじめる理想の食卓づくり

「食」をテーマにさまざまな切り口で構成していますが、今後のプログラムに何か要望はありますか?

学生A
文化的、歴史的なものや、海外の食文化との比較も面白そうですよね。また、海外の農業の実態も興味深いです。
学生B
農業だけでなく、水産業も面白いですよね。また、食に関連した職人さんや匠と言われる人の話しも興味あります。
学生C
農業体験も泊まりがけで行くぐらいしたいですよね。
太田
貴重なご意見ありがとうございます。「食」を切り口に今後もさらに充実したプログラムを展開していきますので、皆さん今後ともよろしくお願いしいます。
本日はありがとうございました。